TOP樹状細胞について>樹状細胞の本来の機能(感染防御)

樹状細胞は直接がんを殺す細胞ではありません。大阪大学の審良(あきら)教授を中心に、樹状細胞がバクテリアやウイルス感染に対応する仕組みの解明が進んでいます。審良教授は、論文引用数世界首位を継続しています。(革新的で最先端の研究を、他人が評価するのは無理があります。最先端の研究の中身は、やっている当人にしか、本当は分からないからです。そのため、科学の世界では、他の研究者に論文が引用される頻度を、研究者のインパクト、影響力の強弱を測る便宜上のバロメーターとし、研究予算を配分する際の、参考などにします。)

樹状細胞は、バクテリアやウイルス全体、もしくはある種のグループが共通に持つ構造で、ヒトの細胞には存在しないか、稀にしか存在しないものを認識するセンサーを備えています。このセンサーはTLRと呼ばれ、これまで十数種類が発見されていますが、それぞれが、バクテリアやウイルス特有の構造体に対応しています。このTLRをいくつか組み合わせることで、現存するほとんどのバクテリアやウイルスを認識することができます。たとえば、細胞壁はバクテリアには存在しますが、ヒトの細胞には存在しません。そして、樹状細胞は、細胞壁特有の構造を認識するTLRをもっています。

ところが、樹状細胞は、がん細胞を認識するセンサーをもっていません

樹状細胞は、NK細胞のように全身をパトロールするのではありません。末梢血液中にはほとんど存在せず、消化管や皮膚の基底部に張り付いています。(基底部に張り付いている樹状細胞をはがして取ってくることはできません。そこで、免疫細胞療法に用いられる樹状細胞は、自然の樹状細胞を用いるのではなく、血液中に沢山含まれる単球を薬剤で刺激し、人工的に樹状細胞へ分化誘導したものです。体内で成熟した樹状細胞と同じ機能を持つ保証はありません)
つまり、「菌やウイルスが大量に存在する」腸管や皮膚の表面には樹状細胞はいないのです。そこは、菌の巣であって構わないのです。一方、底の部分、基底部というところは、「菌やウイルスが大量に存在してはいけない」のです。腸管内にいた菌の大群が、もし基底部に侵入してくれば、警戒網を張って待ち構える樹状細胞と盛んに接触します。それは感染症の発生を意味します。

では、樹状細胞が、菌やウイルスの大群を認識すると、どうするのでしょう。T細胞や、B細胞を誘導するのですが、菌に対しては、抗体が有効です。菌は、一個、一個バラバラだと、弱いのですが、大きな集団が塊となって組織をつくると強敵となります。しかも増殖力は、がん細胞やウイルスの比ではありません。フルスピードで増殖すると、1個のバクテリアが、半日で1兆個以上にも増える可能性があります。そこで、大量の抗体を浴びせ、炎症系(補体)を含む複雑な免疫システムを総動員して、菌の巣と赤血球を一緒にして固めてしまいます。
ウイルスの場合も、バラバラのウイルスは酵素で、どんどん分解できます。ヒトの細胞内に入り込んだウイルスには直接、手を出せないので、キラーT細胞が、ウイルス感染細胞を破壊することで、ウイルスの発生源を断ちます。この一連の反応は、感染が発生している部位において特に活発に起こります。この場合、菌やウイルスを細かく分析する必要はありません。感染が成立した場所にT細胞やB細胞を集め、その近辺にいる菌やウイルスを片っ端から処理すればいいのです。相手が、何という菌かが重要なのではなく、菌が存在してはいけない場所に、大量にいるのですから、どんな菌であろうと、菌特有の構造に反応する抗体を大量に浴びせればいいのです。
痘瘡ウイルス(天然痘の原因ウイルス)の感染を防ぐのに、痘瘡ウイルスそのものや、痘瘡ウイルス由来の物質は使われませんでした。ワクチンとして用いられたのは、ワクチニアウイルス、という痘瘡ウイルスとはほとんど類似性のない別種のウイルスでした。免疫反応というと、特定の物質に反応する、特異性が重要、と考えられがちですが、現実の感染防御システムを考えれば、細かく相手の性質を特定するより、「菌」とか「ウイルス」という大くくりの捉え方と、「どこにいるのか」「大量に活動しているのか」といった全体的な危険レベルを認識することが、何よりも重要です。