TOP>分子標的薬とADCC活性

欧米では、分子標的薬が年々、売上を伸ばしており、従来型の抗がん剤である殺細胞剤を追い越して、がん治療薬の主役の座に躍り出ています。薬で、がん細胞を直接、傷害しようとすると、正常細胞も傷害します。そこで、「がん細胞の増殖にブレーキをかける」あるいは、「血管新生を阻害する」など、何らかの効果を発揮しながら、免疫システムが、がん細胞を排除するのを「待つ」という概念で、分子標的薬が開発されました。大変、種類が多いのですが、「免疫システムにダメージを与えない」ことは共通です。分子標的薬の中でも、抗体医薬品と呼ばれるものの開発段階では、可能な限り、ADCC活性(抗体依存性細胞傷害活性)を活用できるものを探索します。ADCC抗体は、NK細胞が、がん細胞を傷害する効率を高める作用を持ちます。

欧米では、NK細胞を手助けする免疫系がん治療薬が、20世紀の終わりころから、大量に使われています。

体の中で、がん細胞を狙い撃ち、正常細胞を傷害しない性質をもつものは、NK細胞以外に見つかっていません。薬は、わき役に徹するという考え方で設計された分子標的薬は、NK細胞が活動しやすい状況を創り出すことで最大の効果を発揮すると考えられます。

日本では、相変わらず、殺細胞剤(抗がん剤)が主流であり、殺細胞剤市場の4割以上が日本に集中するという異常な事態となっています。日本国内では、「標準治療」と呼ばれていても、世界の標準治療からは大きく逸脱しています。日本では、分子標的薬は、一部の部位しか保険適応になりません。

例えば、トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)という分子標的薬は、転移性乳がんと、治癒切除不能の胃がんに保険適応になっています。ところが、この薬が標的とするHER2というたんぱく質は、食道がんや前立腺がん、肺がんや大腸がんなどでも、高い確率で過剰発現されています。つまり、原理的には、部位には関係なく、標的物質を大量に発現しているがん細胞であれば、薬は効果を発揮する(はず)と考えられます。日本の制度上、保険診療医は厳密なルール通りに薬を使う義務がありますので、「薬が効く」と考えられるかどうかに関係なく、ルール以外の薬は最初から検討の余地がありません。

免疫と相性のいい分子標的薬は、免疫細胞療法と同時併用するのが理想です。ところが、日本の保険診療では、分子標的薬を、免疫細胞にダメージを与える抗がん剤と併用することが多く、しかも、免疫抑制剤であるステロイドを投与するのが一般的です。これでは、分子標的薬本来の威力を発揮するのは難しくなります。(米国では、分子標的薬の単独投与も広く行われています) そのため、日本では世界標準の分子標的薬が、それほど効果がないというイメージをもたれ勝ちです。

世界標準の分子標的薬を本来の薬剤設計通りに使用するには、保険適応外で、自由診療で処方するしかありません。保険適応の拡大がなかなか進まない現実の中で、分子標的薬に関しては、保険適応外の処方もやむを得ないと考えられ、ANK療法実施医療機関のうち、「拠点医療機関」とされている施設では、国内正規ルートで分子標的薬を購入し、自由診療での処方も行っています。

ANK療法実施医療機関では、膨大な種類のある分子標的薬の中から、副作用が少ないもの、ANK療法との相乗効果が期待できると考えられるもの、検査が容易なもの、価格などを総合判断して、使いやすいものを厳選して、処方を検討します。保険適応外で薬剤を使用する際には、当然、慎重の上にも慎重に、よく素性がわかっている使用実績のある薬剤を使うのが基本です。分子標的薬は、「援軍」になると考えられる限り、併用が推奨されますが、ANK療法を受診される際の必須条件ではありません。ANK療法単独での受診も可能です。

正常細胞もがん細胞も、細胞増殖因子あるいは、成長因子とよばれる刺激物質を大量に受け取ると、細胞分裂つまり増殖を活発化させることが分かっています。
また、発見された発がん遺伝子の大半が、この細胞増殖因子を受け取るレセプターに関係する遺伝子にわずかな変異を起こしたものでした。レセプターは、細胞表面に突き出したアンテナで、細胞増殖因子を受け取り、そのことが引き金となって、細胞内に変化が起こります。
その後は、何十という物質や酵素が複雑に影響しあって、結果的に、細胞分裂のスイッチを押し、増殖フェーズに入ります。

1.細胞表面に突き出したレセプターで、細胞増殖因子を受け取ります。

2.レセプターが細胞増殖因子を受け取ると、細胞内に変化を起こす信号が送られます。

3.細胞内に変化を起こす信号が強くなると、増殖フェーズに入り細胞分裂が起きます

4.増殖信号のレセプターを異常に大量に発現(過剰発現)するがん細胞は、レセプターの種類によっては、活発に遠隔転移を起こす傾向や、正常組織に激しく浸潤する危険な性質をもちます。そこで、増殖信号の伝達をどこかでブロックすることで、危険度の高いがん細胞の増殖にブレーキをかける、というコンセプトの薬剤(分子標的薬)が次々に開発され、実用化されています。

増殖信号のレセプターは正常細胞にも存在します。増殖信号レセプターを標的とする薬剤は、正常細胞の増殖にも影響を与えます。但し、主に上皮細胞(内臓や皮膚、粘膜などの柔かい組織をつくる細胞群)の増殖を抑えますが、免疫細胞には悪影響を及ぼしません。信号やレセプターの種類が異なるからです。

分子標的薬の一種に抗体医薬品があります。抗体医薬品は、がん細胞と正常細胞を区別するものではなく、ターゲットとなる細胞表面のレセプターに結合します。また、抗体が結合した、というだけでは、標的細胞は破壊されません。レセプターに抗体が結合することで、物理的に、増殖信号の伝達をブロックしていくのです。更に、抗体の中には、ADCC活性を作用機序とするものがあります。

このタイプの抗体が標的抗原に結合していると、NK細胞を刺激します。抗体が正常細胞に結合していても、NK細胞は見向きもしません。ところが、抗体ががん細胞に結合していると、NK細胞は、非常に効率よく、がん細胞を攻撃します。抗体医薬品自身はがんを攻撃しません。
ADCC活性を作用機序とするタイプの抗体医薬品は、NK細胞によるがん細胞の攻撃力を高めることで、がん細胞の排除を狙います。

がん細胞に対する攻撃力はどうなるでしょうか。

このグラフは、一定の数の標的がん細胞と、免疫細胞を一緒に培養し、一定時間内に傷害されたがん細胞の比率を表しています。つまり、がん細胞を傷害する効率を示すものです。標的細胞には、やはり、MHCクラスIを持つがん細胞を選びます。MHCクラスIを持たないがん細胞を標的とすると、最初から、ANK以外は、反応できないからです。
一般法の場合、培養時間を延長しても、グラフの状況は変わりません。
CTLは、時間をかければ、標的がん細胞が全滅するまで、攻撃を続けます。
ANKは他を圧倒する攻撃力を示しています。
ANKと分子標的薬(抗体医薬品)トラスツズマブ(商品名:ハーセプチン)を併用すると、更に、攻撃力が増します。
分子標的薬トラスツズマブは、がん細胞に結合しているだけで、攻撃はしませんが、NK細胞を刺激するADCC活性を作用メカニズムとして製造承認を受け、健康保険適応となっています。
抗体医薬品との相乗効果があるのはANKだけでしたので、他の療法と抗体医薬品を併用したケースのデータは省略させていただきました。なお、樹状細胞やペプチドワクチンは、がんを攻撃しませんので、この実験系で直接評価できません。