TOPがん治療の基本>がんの診断技術

体内の正常細胞とがん細胞を確実に見分ける技術は、未だに存在しません。確定診断のためには、体外に、「がんと思われる」組織を取り出して、病理検査を行う必要があります。
がんは、腫瘍組織を手術やバイオプシー(生体検査)により取り出し、病理の専門医が病理検査を行った時点で確定診断が下り、それまでは、「がんの疑い」と考えられています。
病理検査では、腫瘍組織やがん細胞の性質が詳細に調べられます。専門のサイトでも紹介されていますので、ここでは、重要なポイントのみを強調させていただきます。

がんという病気を、部位やステージのみならず、
増殖能力や転移能力、全身に広がろうとする勢いで捉えることが重要

病理検査では、個々のがん細胞や、腫瘍組織の形状から、転移・増殖能力を判断することもできます。また、がん細胞個々の遺伝子や、細胞表面物質の多寡なども検査できます。
病理検査の結果により、切除された腫瘍中のがん細胞が、おおむね発生部位に留まる性質のままなのか、すでに、転移する性質を獲得しているのか(その場合、転移している、と考えられます)、最も重要ながんの危険度も判定されています。

バイオプシー(生体検査)という針を刺すなどして、体内から腫瘍組織があると思われる部位のサンプルを取る検査方法もあります。この場合、がん細胞が存在する部位をはずしてしまう可能性もある他、針を刺すことにより、細胞が異常化する影響、周辺組織全体をみることができない、など、いくつも限界や制約があります。

がん細胞だけを直接、映像に捉えることはできません。
代表的な画像診断として、CTスキャン、MRI、PET、あるいは、超音波や古典的なレントゲンなどがあります。これらは、「がん細胞が映る」ものではありません。
画像診断で捉えることができる腫瘍組織は小さくても1cm程度と考えられています。PETの場合、3~5mmのサイズの腫瘍をみつけることもありますが、例外的なものです。ところが、1cmの腫瘍組織には、大雑把に言って10億個ものがん細胞が存在し、この位の大きさに腫瘍が成長するころには、既に、転移は成立していると考えられます(転移する傾向が強い場合は)。

画像診断は、体内に、がんが存在しないことを証明することはできません。

  • ・確実に、がん細胞を捉える保証はない、また単独で確定診断は難しい
  • ・1cm程度の腫瘍サイズが実用的な検出限界(およそ10億個のがん細胞)
  • ・がんを発見したときには、既に、転移している可能性がある
  • ・治療後、全身に散る微小分散がんや、数ミリ以下の腫瘍を検出できない可能性大

CTスキャンやMRIは、形状を捉えるものです。明らかに大きな塊が、正常細胞を激しく浸潤している画像が得られれば、これはまず、悪性度の高い進行性のがんでしょう。あるいは、半年毎に撮像された塊が、正常組織を押しのけどんどん大きくなっているのであれば、危険な兆候です。こうした顕著なケースは別として、通常ならば存在しない何か塊が映っている、あるいは影のようなものが映っている、これでは、悪性度の高いがんなのか、良性腫瘍なのか、何か別のものなのか区別はつきません。
一方、がんの転移はランダムというより、特定の部位に発生した原発性のがんは、特定の他の部位へ転移し易い、という傾向をもっていますので、がんと確定診断された患者さんが、術後フォローでCT検査を受けられ、転移が成立する可能性が高い部位に、塊がいくつか見つかれば転移の可能性がより強く疑われ、要注意となります。
つまり、画像のデータだけでは、単純に、がんが映っているのかどうか、断定できなくても、他のデータや、時間経過を追いながら症状の変化を捉えるプロセスの中で、がんの可能性や危険度を医師が総合判断する材料の一つになります。

PETもまた、「がん」が映るのではありません。糖分を大量に取り込んだものが映ります。
放射性物質を含む特殊な糖を合成し、被験者に投与しておきます。体内の放射線強度を、見てわかり易いようにコンピューターグラフィックスを用い、赤い色などで表示すれば、その糖が沢山集まった部分を赤い色の濃さとして、強調してイメージ化することができます。PET画像では、組織の形状が分からないので、形状が映るCTスキャンと同時に撮像し、画像を合成するPET-CTが普及してきました。これで、体のどの部分が、強く赤く光るか、つまり、糖分を大量に取り込んだか、が分かります。

まず、糖分の取り込みが活発な脳と、糖の分解物が排出される尿が溜まる膀胱が、強く光ります。炎症部位や、感染症がある場合、やはり、赤く映ります。
がん細胞が、活発に糖分を取り込んでいれば、赤く映りますが、巨大な腫瘍組織であっても、糖分の取り込みが活発でないがん細胞は映りません。あるいは、全身に微小分散がんが散っている場合も、PET画像には何も映らず、数週間以内に、全身がん細胞に満ち、亡くなってしまう、ということもあります。

実際には、正常細胞の方が、がん細胞よりも、糖分の取り込みが多く、多くのがん細胞は、PETには映りません。骨の周辺部にがん細胞が進出したケースなど、正常細胞が活発に活動していない部位に、がん細胞だけが活発に活動している場合には、はっきりと異常な集積が見られます。

また、ANK療法の点滴を受けたあとは、がん細胞以上に活発に糖分を取り込むNK細胞が、真っ赤に映り、一部は腫瘍組織に集中しますので、まるで、がんが急激に活動的になったようにも見えてしまいます。

PETは、放射線しか捉えることができません。そこで、放射性物質で標識をつけた基質を被験者に投与する方法が取られます。糖分以外の基質も開発されていますが、がん細胞だけが顕著に取り込むことが確実なものは見つかっていません。

腫瘍マーカーは、手術後のモニタリングによく用いられます。
ところが、使用可能な腫瘍マーカーが存在しないがん患者さんは、およそ半数に達します。
腫瘍マーカーは、100種類近くが実用化されていますが、がん細胞特有の物質を捉えるものは一つも開発されていません。

腫瘍組織が、ある状態の時(通常、大量増殖中のとき)、ある種のがんの場合は、血液中に特定の物質を過剰に出すことがある、そういう物質を、腫瘍マーカーとして用いています。体内で、がん細胞が急増中であっても、100種類の腫瘍マーカーテスト全てを受けたところで、全く、がんを見つけることができない、ということも多々あります。また仮に標準地より高いと判定されても、体のどこに、がん細胞があるのか分かりません。がん以外の原因で、腫瘍マーカーが上昇している可能性もあります。

腫瘍マーカー
がんが見つかっていない人が受ける集団検診などに使用する
スクリーニングには向いていない

この腫瘍マーカーを用いるのが適切だと判断される患者さんで、条件が整った場合に限り、治療後のモニタリングなどの目的で腫瘍マーカーを使用します。

体内のがんの状態を確実に診断する技術はありません。さまざまな診断技術は、それらの経緯をたどることで、現在のがんの状態を把握するための手段です。
手術後、見えていたものが、画像上見えなくなった。そして、現在に至るまで、画像上の変化はどうなっているのか。腫瘍マーカーが高いと言われたら、検査日と数値を時系列にまとめるなど、情報を整理することで、いまの状態を推測する手がかりとします。
今日の検査で、腫瘍マーカーが〇〇だった、と一喜一憂するのではなく、時系列に並べ、どのようなカーブを描いているのか、を知ることです。これらの情報整理はがん治療設計の要となります。