TOPがんの進行と標準治療>がんの診断技術はまだまだ稚拙

腫瘍マーカーは、手術後のモニタリングによく用いられます。ところが、使用可能な腫瘍マーカーが存在しない、がん患者さんは過半数に達します。腫瘍マーカーは、100種類近くが実用化されていますが、がん細胞特有の物質を捉えるものは一つも開発されていません。
腫瘍組織が、ある状態の時(通常、大量増殖中のとき)、ある種のがんの場合は、血液中に特定の物質を過剰に出すことがある、そういう物質を、腫瘍マーカーとして用いています。体内で、がん細胞が急増中であっても、100種類の腫瘍マーカーテスト全てを受けたところで、全く、がんを見つけることができない、という確率が高いのです。また仮に陽性となっても、体のどこに、がん細胞があるのか分かりませんので、標準治療を適用するのは無理があります。
そのため、腫瘍マーカーは、スクリーニング、つまり、がんが見つかっていない人が受ける集団検診などに使用するには向いていないと考えられています。この患者さんについては、この腫瘍マーカーを用いるのが適切だと判断される条件が整った場合に限り、治療後のモニタリングなどの目的で腫瘍マーカーを使用します。ただし、腫瘍マーカーの値が、健常人と同じレベルに下がったとしても、がん細胞が消えたことの厳密な証明にはなりませんので、フォロー検診が必要となります。

画像診断も、必ずしも、確実なものではありません。

代表的な画像診断として、CTスキャン、MRI、PET、あるいは、超音波や古典的なレントゲンなどがあります。これらは、「がん細胞が映る」ものではありません。

画像診断で捉えることができる腫瘍組織は小さくても1cm程度と考えられています。PETの場合、3〜5mmのサイズの腫瘍をみつけることもありますが、例外的なものです。ところが、1cmの腫瘍組織には、大雑把に言って10億個ものがん細胞が存在し、この位の大きさに腫瘍が成長するころには、既に、転移は成立していると考えられます(転移する傾向が強い場合は)。

画像診断は、体内に、がんが存在しないことを証明することはできません。

  • 確実に、がん細胞を捉える保証はない、また単独で確定診断は難しい
  • 1cm程度の腫瘍サイズが実用的な検出限界(およそ10億個のがん細胞)
  • がんを発見したときには、既に、転移している可能性がある
  • 治療後、全身に散る微小分散がんや、数ミリ以下の腫瘍を検出できない可能性大

CTスキャンやMRIは、形状を捉えるものです。明らかに大きな塊が、正常細胞を激しく浸潤している画像が得られれば、これはまず、悪性度の高い進行性のがんでしょう。あるいは、半年毎に撮像された塊が、正常組織を押しのけどんどん大きくなっているのであれば、危険な兆候です。こうした顕著なケースは別として、通常ならば存在しない何か塊が映っている、あるいは影のようなものが映っている、これでは、悪性度の高いがんなのか、良性腫瘍なのか、何か別のものなのか区別はつきません。

一方、がんの転移はランダムというより、特定の部位に発生した原発性のがんは、特定の他の部位へ転移し易い、という傾向をもっていますので、がんと確定診断された患者さんが、術後フォローでCT検査を受けられ、転移が成立する可能性が高い部位に、塊がいくつか見つかれば転移の可能性がより強く疑われ、要注意となります。
つまり、画像のデータだけでは、単純に、がんが映っているのかどうか、断定できなくても、他のデータや、時間経過を追いながら症状の変化を捉えるプロセスの中で、がんの可能性や危険度を医師が総合判断する材料の一つになります。

PETもまた、「がん」が映るのではありません。放射性物質を含む特殊な糖を合成し、被験者に飲んでもらいます。体内の放射線強度を、見てわかり易いようにコンピューターグラフィックスを用い、赤い色などで表示すれば、その糖が沢山集まった部分を赤い色の濃さとして、強調してイメージ化することができます。PET画像では、組織の形状が分からないので、形状が映るCTスキャンと同時に撮像し、画像を合成するPET-CTが普及してきました。これで、体のどの部分が、強く赤く光るか、つまり、糖分を大量に取り込んだか、が分かります。

まず、糖分の取り込みが活発な脳と、糖の分解物が排出される尿が溜まる膀胱が、強く光ります。がん細胞が、活発に糖分を取り込んでいれば、赤く映りますが、巨大な腫瘍組織であっても、糖分の取り込みが顕著に活発でない(逆に、極端に取り込みが少なければ、別の色で表示することもできます)、あるいは、全身に微小分散がんが散っていても、PET画像には何も映らず、数週間以内に、全身がん細胞に満ち、亡くなってしまう、ということもあります。炎症部位や、感染症がある場合、やはり、赤く映ります。また、ANK療法の点滴を受けたあとは、がん細胞以上に活発に糖分を取り込むNK細胞が、真っ赤に映り、一部は腫瘍組織に集中しますので、まるで、がんが急激に活動的になったようにも見えてしまいます。
PETは、放射線しか捉えることができません。そこで、放射性物質で標識をつけた基質を被験者に投与する方法が取られますので、がん細胞と正常細胞とで、「取り込む量」が違う基質を用いるしかありません。糖分以外の基質も開発されていますが、がん細胞だけが顕著に取り込むことが確実なものは見つかっていません。