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がん免疫細胞療法には、明確なエビデンス=臨床上の有効性の証明(実際に、患者さんを治療して確認された効果証明)が存在します。米国国立衛生研究所NIHが実施した大規模臨床試験により、顕著な効果を示したものが2件、民間企業が実施した治験に基き、若干の延命効果を示すことで、米国政府の承認を取得したもの1件です。残念ながら、医療制度による制約に加え、公的資金による研究助成の規模やベンチャー企業の資金調達力などの圧倒的な差異がある日本では、大規模な臨床試験による有効性の確認はなされていません。

米国では、免疫細胞療法を含む、様々な免疫系がん治療の検証を目的とした臨床試験や、より厳密に管理された治験が多数、実施されてきましたが、ほとんどが効果を示せずに終わり、一部だけが有効性を証明しています。これらを総合して、免疫細胞療法が効果を発揮する条件が明確にされています。

  • 1. 体外での培養によって、がん細胞を傷害する十分な活性をもつキラー細胞を、十分な数だけ揃えること
  • 2. 体内の免疫抑制を緩和する措置を行うこと

以上が、免疫細胞療法が、治療効果を発揮する必要条件です。

  • ・膨大な量のNK細胞を取り出す (3日間かけて血液を体外循環させて採取)
  • ・高濃度IL-2刺激により、NK細胞の活性を健常人以上に高める
  • ・NK細胞が増殖を始め、活性が下がってしまう前に、体内に戻す(培養期間3日以内)

一番、強力なのは、LAK療法と呼ばれるものです。血液数十リットル相当から集めた大量のリンパ球を強く刺激し、短期間の内に、体内に戻しました。NK細胞を強く刺激すると、活性は高くなりますが、培養期間が3日を過ぎると増殖が始まります。ところが、増殖の際に、活性の高いNK細胞ほど高い攻撃力ゆえに、自爆を起こしやすく、活性の高いNK細胞が死滅します。そこで、培養期間を3日以内に制限しました。
抗がん剤が奏効しないとされる進行がん患者数百名を対象に、わざわざ抗がん剤シクロフォスファミドを大量投与し、奏効しないことを直前に確認した上で、実施されたLAK療法により、全員に何らかの効果が見られました。腫瘍が半分以下に縮小したケースは15~25%、大きな腫瘍が一気に壊死を起こし、再発しないケースもありました。これは、直前の徹底した抗がん剤投与も含め、抗がん剤により免疫力が低下している状態で、たった一回の免疫細胞療法を行った結果ですので、大変な威力です。但し、大きな腫瘍が壊死を起こす場合、大量に死滅した細胞からカリウムが体液に溶け出し、心停止を起こすリスクがある他、リンによって、腎機能に重大な障害を来すリスクもあります。そのため、LAK療法は、ICU集中治療室を占拠し、体液コントロールを行いながら実施されました。従い、非現実的なコストがかかり、実用化は見送られました。

なお、培養細胞を体内に戻す際に、免疫刺激物質インターロイキン2も投与されていました。目的は、体内の免疫抑制を緩和するためです。インターロイキン2の大量投与による典型的な副作用である、肺水腫により、およそ1%の患者さんが、この治療により、お亡くなりになっています。また、LAK療法の検証よりも前に、インターロイキン2単独投与による臨床試験も実施されています。結果は、大量投与によって効果はみられるものの、副作用が激しすぎ、投与量を少なくすると効果がなく、実用的ではありませんでした。

LAK療法では、血液中のあらゆる免疫細胞を区別なく培養し、体内に戻します。後に、LAK細胞群からNK細胞だけを除去したところ、ほとんど、がん細胞を傷害しませんでした。つまりLAK療法の成果のほとんどは、NK細胞によることが明らかにされたのです。

なお、LAK細胞群から、T細胞を除去する手法も検証されました。ところが、活性の高いNK細胞は大量の細胞間接着物質(糊)を分泌します。T細胞を除去する際に、活性の高いNK細胞も糊でくっつき、一緒に除去されてしまい、活性の低いNK細胞が残されます。これを培養により増殖させて、臨床試験が実施されましたが、当然、効果は見られませんでした。大量の粘着物質を分泌する高活性NK細胞を除去することは容易ですが、NK細胞以外を除去して、高活性NK細胞を残すのは無理があります。NK細胞本来の能力を引き出すには、人体から採取されたNK細胞集団全体をそのまま、選別をかけずに、増殖させる必要があり、無理に他の細胞を除去しようとすると、高活性NK細胞も失われてしまいます。

LAK療法の次に強いものが、CTL療法です。患者体内の特定のがん細胞を攻撃するCTLを体外培養により選択的に大量増殖させておき、体内の免疫抑制を排除する強力な薬剤投与を行った後に、CTLを投与するものです。治療効果には、かなりのばらつきがあり、全く効果がでないこともありましたが、何らかの効果が見られることもありました。なお、培養細胞投与前の薬剤措置を行わずに、CTL単独投与の場合は、全く効果がありませんでした。体内の強い免疫抑制により、すぐに活性が下がるためです。

NK細胞の培養は非常に難しいのに対し、CTLは、培養が簡単なT細胞の一種ですので、NK細胞よりもはるかに容易に数を増やすことができます。そこで、米国をはじめ、多くの研究者は、がん退治の本命であっても、扱いにくいNK細胞をあきらめ、簡単に培養できるT細胞や、樹状細胞を研究するようになっていきます。

LAK療法は、非現実的なコストがかかることが明らかになった頃、腫瘍組織にT細胞が浸潤していく現象が注目を集めていました。これこそ、腫瘍を消失させる主役だと勘違いする研究者がでてきました。そこで、腫瘍浸潤細胞(TIL)療法が考案されました。患者体内から採りだした腫瘍中に存在するT細胞を大量増殖させ、体内に戻すものです。T細胞ですから、増殖は容易です。これが、上記のCTL療法なのですが、効果には極端にバラつきがありました。(当たりはずれが激しい) 後日、腫瘍浸潤細胞の多くが、免疫抑制系のT細胞であることが明らかになり、TIL療法のブームは去りました。腫瘍に浸潤するかどうかは、がん治療にとっては、意味のないことであり、重要なのは、腫瘍細胞を傷害するかどうかです。NIHが実施したTIL療法においては、免疫抑制系のT細胞と、がん細胞を傷害するCTLが混在していたと考えられますが、より、確実性を高めるには、標的腫瘍細胞を実際に傷害するCTLを選択的に増殖させる必要があります。

樹状細胞療法あるいは、ペプチドワクチンとして開発されたものも、1970年代以降、繰り返し臨床試験が実施されましたが、単独では効果をあげられません。そこで、樹状細胞:T細胞:NK細胞を1:1:1の比率で混ぜたところ、マイルドな効き目ながら、4ヶ月の延命効果を示します。そして、2010年、米国FDA(医薬食品局)の正式な承認を取得しました。この治療は日本では樹状細胞療法として報道されていますが、実態は、NK細胞療法です。ところが、NK細胞を使用することで、はじめて効果を発揮した事実は、一般には報道されません。

国内では、米国に匹敵する巨額予算を用いることができません。ANK療法の場合は、一般診療開始前に、ごく小規模な臨床試験が実施されました。標準治療を一切、受けていない進行がん患者に対し、ANK療法単独で、半年間、連続治療を行い(4~6クール連続)、進行がんの完全寛解および、5年間、再発の兆候がないことを確認。その上で、ANK療法を受けた患者およびその親族らによって、リンパ球バンクが創設されました。

なお、一般診療開始後は、いわゆる「がん難民」と呼ばれる方や、ターミナル状態の方も多く受診され、また、治療費の問題から、数クール(数千万円)連続治療というケースはあまりなく、臨床試験のようにはいきません。亡くなられるケースの方が多い状態が続きました。その後、ANK療法受診のタイミングは早ければ早いほどいい、「がんと診断されたらANK療法」という告知活動を行いつつ、患者さんは、標準治療を受けられるという前提に立ち、1クールの威力を最大限に高めるため、標準治療との組み合わせや、ここぞというタイミングでANK療法を投入する時期の最適化、分子標的薬の併用など、多くの治療を集中的に組み合わせる「集学的な治療設計」により、進行がんの克服を目指すように方向性を修正しています。