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がん免疫細胞療法には、明確なエビデンス=臨床上の有効性の証明(実際に、患者さんを治療して確認された効果証明)が存在します。米国国立衛生研究所NIHが実施した大規模臨床試験により、顕著な効果を示したものが2件、民間企業が実施した治験に基き、若干の延命効果を示すことで、米国政府の承認を取得したもの1件に加え、2017年からは米国政府承認取得が何件も続いています。残念ながら、医療制度による制約に加え、公的資金による研究助成の規模やベンチャー企業の資金調達力などの圧倒的な差異がある日本では、大規模な臨床試験による有効性の確認はなされていませんでしたが、2018年4月には海外の大手医薬品メーカーがCAR-T療法と呼ばれるタイプの免疫細胞療法の一種の承認申請を行いました。巨額のスポンサーがついた場合は免疫細胞療法も続々と承認取得という時代が幕を開けました。

米国では、従来から免疫細胞療法を含む、様々な免疫系がん治療の検証を目的とした臨床試験や、より厳密に管理された治験が多数、実施されてきましたが、ほとんどが効果を示せずに終わり、一部だけが有効性を証明しています。これらを総合して、免疫細胞療法が効果を発揮する条件が明確にされています。

  • 1. 体外での培養によって、がん細胞を傷害する十分な活性をもつキラー細胞を、十分な数だけ揃えること
  • 2. 体内の免疫抑制を緩和する措置を行うこと

以上が、免疫細胞療法が、治療効果を発揮する必要条件です。

  • ・膨大な量のNK細胞を取り出す (3日間かけて血液を体外循環させて細胞を採取)
  • ・体の外での高濃度IL-2刺激により、NK細胞の活性を健常人以上に高める
  • ・NK細胞が増殖を始め、活性が下がってしまう前に、体内に戻す(培養期間3日以内)

血液数十リットル相当から集めた大量のリンパ球を強く刺激し、短期間の内に、体内に戻しました。野生型のNK細胞を強く刺激すると、活性は高くなりますが、培養期間が3日を過ぎると増殖が始まります。ところが、増殖の際に、活性の高いNK細胞ほど高い攻撃力ゆえに、自爆を起こしやすく、活性の高いNK細胞が死滅します。そこで、培養期間を3日以内に制限しました。
抗がん剤が奏効しないとされる進行がん患者数百名を対象に、わざわざ抗がん剤シクロフォスファミドを大量投与し、奏効しないことを直前に確認した上で実施されたLAK療法により全員に何らかの効果が見られました。腫瘍が半分以下に縮小したケースは15~25%、大きな腫瘍が一気に壊死を起こし再発しないケースもありました。これは、直前の徹底した抗がん剤投与も含め、抗がん剤により免疫力が低下している状態で、たった一回の免疫細胞療法を行った結果ですので大変な威力です。但し、大きな腫瘍が壊死を起こす場合、大量に死滅した細胞からカリウムが体液に溶け出し心停止を起こすリスクがある他、リンによって腎機能に重大な障害を来すリスクもあります。そのため、LAK療法はICU集中治療室を占拠し体液コントロールを行いながら実施されました。結果的に非現実的なコストがかかり実用化は見送られました。
なお、培養細胞を体内に戻す際に、免疫刺激物質インターロイキン2も投与されていました。目的は体内の免疫抑制を緩和するためです。インターロイキン2の大量投与による典型的な副作用である肺水腫によりおよそ1%の患者さんがこの治療によりお亡くなりになっています。また、LAK療法の検証よりも前にインターロイキン2単独投与による臨床試験も実施されています。結果は、大量投与によって効果はみられるものの副作用が激しすぎ、投与量を少なくすると効果がなく実用的ではありませんでした。
米国LAK療法では血液中のあらゆる免疫細胞を区別なく培養し体内に戻します。後にLAK細胞群からNK細胞だけを除去したところ、ほとんど、がん細胞を傷害しませんでした。つまりLAK療法の成果のほとんどはNK細胞によることが明らかにされたのです。
なお、LAK細胞群からT細胞を除去する手法も検証されました。ところが、活性の高いNK細胞は大量の細胞間接着物質(糊)を分泌します。T細胞を除去する際に、活性の高いNK細胞も糊でくっつき一緒に除去されてしまい、活性の低いNK細胞が残されます。これを培養により増殖させて臨床試験が実施されましたが当然、効果は見られませんでした。大量の粘着物質を分泌する高活性NK細胞を除去することは容易ですが、NK細胞以外を除去して高活性NK細胞を残すのは無理があります。NK細胞本来の能力を引き出すには、人体から採取されたNK細胞集団全体をそのまま選別をかけずに増殖させる必要があり、無理に他の細胞を除去しようとすると高活性NK細胞も失われてしまいます。

肝心の高度に活性化されたNK細胞だけを選択的に増殖させる技術的な壁を超えられない米国NIHはT細胞なら選択的に大量増殖可能であり実用性が高いと考えました。そこでLAK療法に次ぎCTL療法の大規模臨床試験を実施しました。患者体内の特定のがん細胞だけを攻撃するCTLを体外培養により選択的に大量増殖させておき、体内の免疫抑制を排除する強力な薬剤投与を行った後にCTLを投与するものです。治療効果にはかなりのばらつきがあり、全く効果がでないこともありましたが、何らかの効果が見られることもありました。なお、培養細胞投与前の薬剤措置を行わずにCTL単独投与の場合は全く効果がありませんでした。体内の強い免疫抑制によりすぐに活性が下がるためです。
NK細胞の培養は非常に難しいのに対しCTLは培養が簡単なT細胞の一種ですのでNK細胞よりもはるかに容易に数を増やすことができます。そこで、米国をはじめ多くの研究者は、がん退治の本命であっても扱いにくいNK細胞をあきらめ、簡単に培養できるT細胞や樹状細胞を研究するようになっていきます。
LAK療法は非現実的なコストがかかることが明らかになった頃、腫瘍組織にT細胞が浸潤していく現象が注目を集めていました。これこそ腫瘍を消失させる主役だと勘違いする研究者がでてきました。そこで腫瘍浸潤細胞(TIL)療法が考案されました。患者体内から採りだした腫瘍中に存在するT細胞を大量増殖させ体内に戻すものです。T細胞ですから増殖は容易です。これが上記のCTL療法なのですが効果には極端にバラつきがありました。(当たりはずれが激しい) 後日、腫瘍浸潤細胞の多くが免疫抑制系のT細胞であることが明らかになりTIL療法のブームは去りました。腫瘍に浸潤するかどうかは、がん治療にとっては意味のないことであり、重要なのは腫瘍細胞を傷害するかどうかです。NIHが実施したTIL療法においては免疫抑制系のT細胞と、がん細胞を傷害するCTLが混在していたと考えられますが、より確実性を高めるには標的腫瘍細胞を実際に傷害するCTLを選択的に増殖させる必要があります。

樹状細胞療法あるいはペプチドワクチンとして開発されたものも1970年代以降、繰り返し臨床試験が実施されましたが、単独では効果をあげられません。そこで、樹状細胞:T細胞:NK細胞を1:1:1の比率で混ぜたところ、マイルドな効き目ながら4ヶ月の延命効果を示します。そして、2010年、米国FDA(医薬食品局)の正式な承認を取得しました。この治療は日本では樹状細胞療法として報道されていますが、実態はNK細胞療法です。ところが、NK細胞を使用することではじめて効果を発揮した事実は一般には報道されません。

国内では米国に匹敵する巨額予算を用いることができません。ANK療法の場合は一般診療開始前にごく小規模な臨床試験が実施されました。標準治療を一切、受けていない進行がん患者に対しANK療法単独で半年間、連続治療を行い(4~6クール連続)、進行がんの完全寛解および5年間、再発の兆候がないことを確認。その上でANK療法を受けた患者およびその親族らによってリンパ球バンクが創設されました。
なお、一般診療開始後はいわゆる「がん難民」と呼ばれる方やターミナル状態の方も多く受診され、また、治療費の問題から数クール(数千万円)連続治療というケースはあまりなく、臨床試験のようにはいきません。亡くなられるケースの方が多い状態が続きました。その後、ANK療法受診のタイミングは早ければ早いほどいい、「がんと診断されたらANK療法」という告知活動を行いつつ、患者さんは標準治療を受けられるという前提に立ち、1クールの威力を最大限に高めるため標準治療との組み合わせや、ここぞというタイミングでANK療法を投入する時期の最適化、分子標的薬の併用など、多くの治療を集中的に組み合わせる「集学的な治療設計」により、進行がんの克服を目指すように方向性を修正しています。

T細胞の遺伝子を組み換えた免疫細胞療法が盛んに研究され、米国では2017年を皮切りに政府承認を取得するものが続いており、日本でも承認申請が行われています。開発母体がいわゆるメガファーマと呼ばれる日本に存在しない巨大な医薬品メーカーであり、莫大な資金を投じて政府承認を取得します。その際の承認取得コストに利益を載せて薬価となります。結果、第一号商品の米国での価格は点滴1回で5000万円を超え、副作用のケアにかかる費用が更に5000万円~1億円ほどという高額なものとなっています。遺伝子組み換えを行っても免疫細胞療法が奏効する原則は同じです。
「体の外で十分な数のキラー細胞を活性の高い状態で培養し、かつ免疫抑制の緩和措置を行う」
CAR-T療法では体内に戻されたT細胞が免疫刺激をかけ続けるように遺伝子を改変してあります。そのため、いつまでも攻撃を続けるのはいいのですがT細胞ですので正常細胞も攻撃するため激しい副作用が高頻度で発生します。がん細胞特有の標的物質は存在しませんのでCAR-T療法で攻撃できるのはがん細胞と一部の正常細胞に共通に存在する物質となります。具体的にはCD19という物質を攻撃するように遺伝子改変されたものが承認を取得していますが、CD19は正常なB細胞(抗体をつくる細胞)に発現しているもので、抗CD19-CAR-Tはがん化したB細胞と正常なB細胞の両方を攻撃します。
攻撃力や免疫刺激力が弱いT細胞を遺伝子改変によって強化したCAR-T療法ですが、がん細胞を特異的に攻撃することができないため効果と副作用のジレンマから逃れることはできません。またCD19以外に適切な標的物質が見当たらず開発は進んでいません。 (詳しくは「CAR-T療法」で検索ください。)