TOP>ANK療法開発経緯

リンパ球バンクは、京都大学で研究段階にあったANK療法を実験として受け、進行がんを克服したがん患者らが、この治療を普及させる目的で創業しました。

がんは体内の免疫細胞を眠らせながら増殖します。がんという病気は免疫病なのです。実際に非常に強い免疫刺激を加えれば進行がんでも消失し再発しない現象が昔から知られています。ところが安全な物を投与しても免疫は目覚めません。そもそも、ほとんどの免疫細胞はがん細胞を攻撃しないこともわかりました。がん退治の本命探しが行われ活性が高ければどんながん細胞でも直ちに傷害する免疫細胞が発見されNK(ナチュラルキラー)細胞と名付けられました。「生まれながらの殺し屋」という異名で呼ばれることもあります。「がん退治のために生まれてくるNK細胞を体の外に採り出し、大量の免疫刺激物質を浴びせれば安全に目覚めさることができる」 体の外で培養された免疫細胞を患者さんに戻す免疫細胞療法の実用化が検討されました。

米国国立衛生研究所(NIH)は大規模な臨床試験により免疫細胞療法の有効性を証明します。ご参考のため末尾にニューイングランドジャーナルオブメディシン誌に投稿された論文の明細を記載しておきます。(*1)
NIHは、3日間かけて一人の患者さんにつき延べ50リットルレベルの血液を体外循環させ、血液の大半の成分を体に戻しながらリンパ球を分離採取しました。その中には数十億個ほどのNK細胞が含まれていました。これに膨大な量の高価なインターロイキン2を浴びせます。そして高度に活性化されたNK細胞を速やかに点滴で体内に戻しました。米国LAK療法と呼ばれる治療です。抗がん剤が効かない末期進行がん患者さん数百人全員に何らかの効果が見られ15~25%のケースで腫瘍サイズ半減以下となりました。活性を高めたNK細胞を数十億個レベルで投与すれば効果を発揮することを証明したのです。

ところが巨大な腫瘍が壊死を起こして一気に崩れてしまうこともあり、飛び出した大量のカリウムで心停止に至る等、様々な問題がありました。強過ぎる免疫副反応対策のため治療は集中治療室ICUを占拠して行われ、余りにもコストがかかり実用化は見送られました。米国LAK療法は日本でも検証が行われましたが米国よりも予算規模が桁違いに小さく同じ条件で追試されたことはありません。そのため、当初言われたような効果はないとする報告が続きましたが、NIHが本気で厳密に検証した明確なエビデンス(実際の治療として有効性を証明)を否定できるものではありません。

米国LAK療法はローゼンバーグ博士が予算取得などを行いましたが実際に現場の治療を指揮したのはロッテ博士です。当時インターロイキン2発見者であるケンドールスミス博士をはじめ免疫細胞の研究者が集まっていたダートマス大学にロッテ博士が講演に来られました。

NK細胞の活性を上げることはできても細胞分裂が始まると高い攻撃力ゆえにすぐに自爆してしまう。また混在するT細胞が爆発的なスピードで増殖し莫大な培養コストがかかりますが、がん細胞を攻撃するT細胞はごく一部です。そこで培養期間を3日間以内に制限して、大量の血液からNK細胞を集め、活性だけ上げて増殖を始める前に培養細胞すべてをすぐに体内に戻したのです。
「高度に活性を高めたNK細胞だけを選択的に増殖できればがん治療は変わる」のですが実用的な培養技術が存在しませんでした。ロッテ博士は「そのような培養法がありますか?」とインターロイキン2レセプター発見者である勅使河原計介博士に専門家としての意見を求めました。(インターロイキン2レセプターは免疫チェックポイントの一種で、免疫細胞の表面にあり、インターロイキン2を受け止めます)

京都大学に戻った勅使河原計介博士は当時大学院生だった大久保祐司医師と共同でNK細胞の「活性化と選択的増殖(NK細胞だけを増殖させる)」技術を実際にがん治療に使えるレベルで実現し、活性化と増殖の両方の意味を込めてA(Amplified = 増強された)NK自己リンパ球免疫療法(ANK療法)と名付けました。

NK細胞の最適培養条件は絶えず変化します。生き物に人間の都合で決まった培養条件を押し付けるとうまくいかず、NK細胞は一夜にしてほとんど死滅することもあります。ANK療法ではNK細胞のその時々の状態に合わせて培養条件を微妙に調整します。すると、混在するT細胞にとっては最適条件とずれるため、やがて減っていき、NK細胞だけが増殖し続けます。

その後、京都大学でANK療法開発者と同じ免疫チェックポイント(レセプター)分野の研究を行っておられた研究者が関与された「免疫細胞を眠らせる抑制信号をブロックする免疫チェックポイント阻害薬」が開発されます。まだ複雑なNK細胞の信号制御ができるレベルではなく、現状では漠然とT細胞全体を目覚めさせてしまうため、正常細胞も攻撃されて重篤な自己免疫疾患を起こすリスクがあります。(T細胞は正常細胞も攻撃します) やはり複雑な体内に薬を投与するよりも体の外の「見える」環境で培養し、がん細胞を傷害し正常細胞は攻撃しないNK細胞を確実に増強するのが実用的と考えます。

  1. LAK療法関連論文 ニューイングランドジャーナルオブメディシン
    A Progress Report on the Treatment of 157 Patients with Advanced Cancer Using Lymphokine-Activated Killer Cells and Interleukin-2 or High-Dose Interleukin-2 Alone
    DOI:10.1056/NEJM198704093161501
  2. インターロイキン2レセプター関連論文 ネイチャー
    Molecular cloning of DNA encoding human interleukin-2 receptor. Nature. 1984 ; 311 (5987) : 631-635
    Toshio Mikaido, Akira Shimizu, Norio Ishida, Hisataka Sabe, Keisuke Teshigawara,
    Michiyuki Maeda, Takeshi Uchiyama, Junji Yodoi, Tasuku Honjo :
    免疫細胞の培養にはインターロイキン2の添加が必須である。ANK療法開発者2名のうちの一人、勅使河原計介医学博士は、免疫細胞表面にあるインターロイキン2レセプターの発見者の一人である。「ネイチャー」誌掲載論文には、免疫チェックポイント阻害薬「オプジーボ」の開発者である本庶佑医学博士をはじめ、免疫細胞研究の黎明期をリードした研究者の名が並ぶ。