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2019年07月08日

  

がん, 免疫

本日の化学工業新聞に免疫細胞療法のニュースが2題掲載され、いずれも免疫細胞療法の市場は大きく将来は有望というトーンで紹介されています。

 

一題はiPS細胞からNK細胞を分化誘導し、無血清培地でも培養できたので従来の動物由来の成分を含む培地のような未知の感染源が存在するリスクが低いというお話が載っています。

 

この話は前々からよく質問されるのですが、NK細胞自体は、体内に1000億個レベル、まあ「大量に」存在しています。採ってくればいいわけで、わざわざ「作る」意味はありません。 問題なのは「野生型」のNK細胞を高活性を維持しながら、選択的に増殖させることが難しいのです。 iPS細胞からNK細胞ができても、そこから後が一番、難しいのであって、まだまだ肝心なハードルをクリアしていない、ということです。

 

もちろん研究としてはいろいろとやってみればいいのですし、NK細胞の分化誘導プロセスに関する知見を積み上げていくことは学問上の意味があります。ただマスメディアはすぐに治療の実用性について問いますし、研究者側もまさか考えてないとは答え難い事情があり、それなりの回答をされます。すると、ずいぶんと実用化に近づいたような印象を受ける記事になっていきます。

 

iPSから誘導したNK細胞ははたして「野生型」かと言う問題も残ります。体内で自然に成熟する複雑なプロセスを体外で確実に再生できるのかどうかはわかりません。NK細胞といってもいくつかのサブタイプの集合体であり、これらがバランスよく存在してはじめて「どんながん細胞でも傷害する」のであって、がん細胞を認識するセンサー群に偏りがあっても、うまく認識できないがん細胞がでてきてしまいます。とりあえず研究段階では、CD56というマーカーを出していること、特定の標的がん細胞を傷害することまでは確認しておられますが、治療の実用性となると野生型がどうかというはるかに面倒な検証を行う必要があります。

 

無血清培地を用いたということですが、これはNK細胞療法を本格的に実施するなら必ずクリアすべきハードルです。私どもは完全無血清培地を使用していますが、記事にあるような感染源の有無だけを問題にしているのではありません。 ANK療法以外の他の免疫細胞療法事業者は、よくヒト血清を用いていますが、理由は、あまり培養技術がなくても血清を加えておくと培養しやすい、という事情があります。ANK療法においてヒト血清を添加しない理由は使用する培地の量が桁違いに多いので血清など買ってきて加えていたらとても現実的な値段で提供できない、ということと、血清にはよくわからないものも入っているので、精緻な培養を行う際には邪魔になることもある、という側面もあります。

 

もう一題は、患者自己抗原特異的なCTLの培養というものです。記事ではこの技術をもつのは紹介されている会社だけ、とありますが、私どものグループはすでに、患者自己抗原特異的なCTLの提供について国に届出を受理されており、厚労省のHPでも確認できます。 価格表も公開されていますが、私どもは原則無償提供です(一部、若干の付帯費用が発生することがあります)。 NK細胞と違って攻撃力が弱い、攻撃できるがん細胞はごく一部に過ぎない、という問題点に加えて、免疫刺激能力がないため、点滴で体内に戻すと直ちにがん細胞による免疫抑制を受けて、活性が下がってしまうという弱点があります。そのため単独投与は意味がないとして、補助療法として無償提供しているものです。 

 

ちなみにNK細胞療法も患者自己抗原特異的CTL療法もどちらも米国国立衛生研究所が実施した大規模臨床試験により有効性は確認されています。

 

 

がん治療を根本的に変えると考えれば、体内のがん細胞を狙い撃ちで攻撃できるNK細胞と、あとはあるとすれば一部のがん細胞に限って狙い撃てるCTLと、この2つしか可能性がありません。 NK-Tとかγ/δT とか両者の中間的な細胞もいますが、能力も中途半端ですので、結局は、NK細胞を中心に補助的にCTLを用いるのか、というところに行きつきます。今回の記事は少なくとも主役となるべき細胞にスポットが当たり、今後、免疫細胞療法が普及していく方向感を示しているということでは好意的に読まさせて戴きました。

 

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