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2019年02月11日

  

がん, 免疫

日本における免疫細胞療法の承認申請第一号であるCAR-T療法CTL019の承認可否の審査予定が発表されています。 おそらく承認にはなるでしょうが、では、これからCAR-T療法の時代がくるのかというと、これ一発でおそらく終わりです。

 

CAR-T療法の最大の問題は、CD19以外に標的を見出せないことですが、他にもいくつも問題があります。

 

プラットフォームにT細胞を用いているため、どうしてもGVHDや自己免疫疾患を発症しやすいというリスクがあり、各社とも他人のT細胞はあきらめて、患者本人のT細胞を使っています。 そうなると他家細胞、つまり健常者の細胞を用いて「量産」するのに比べるとどうしてもコスト高になります。

 

また、固形がんを標的にしても腫瘍組織に浸潤していかない、と言われます。

 

それは単に、適切な標的がないからかなのかもしれませんが、本当の理由はわかりません。ともかくやってみるとうまくいかないのです。

 

CAR-T療法の研究はまだまだ盛んですが、CD19を発現するリンパ腫以外に手が出せず、次の手を打てない状況です。現在、研究の方向性は、余りにも激しい副作用を抑えるために、体内に投与後に活動しなくなるか、弱まるような遺伝子操作の工夫です。 CAR-Tというのは、がん細胞を広く認識するセンサーを持たないT細胞に対して(T細胞というのはそういうものです)、特定の標的物質を認識・攻撃する遺伝子と共に、やはりこれもT細胞の特徴なのですが、免疫抑制が強い患者体内ではすぐに活性が下がってしまうのを防ぐために、免疫刺激シグナルが強力に出続けるようにも遺伝子操作を加えてあります。すると刺激が強すぎてサイトカイン放出症候群を招いてしまいます。 こちらを適度に抑えるブレーキの遺伝子操作がいくつも試されています。

 

一方、早々にCAR-T療法の限界に見切りをつけて、CAR-NK療法にシフトする研究者が増えてきました。 ここでプラットフォームに用いるNK細胞は、ANK療法で用いるような野生型の攻撃力が強いものの培養が難しいNK細胞ではなく、セルライン化された攻撃力は弱くなって、攻撃しないがん細胞がいくつもいるミュータントNK細胞です。 野生型より有利な点は、がん細胞のように再現なく増殖し続けるということです。 セルライン化された細胞は基本的に際限なく増殖します。どう考えても正常細胞ではなくなったということですが、研究者が基本的に使うセルライン細胞とは、つまり「半ば」がん化した異常細胞なのです。 セルライン化されたNK細胞なら培養は簡単ですが、どこまで野生のNK細胞の性質を維持しているかが問題です。 CAR-NK療法に移った研究者は、NK細胞なんだから、GVHDは起こさないし、自己免疫疾患も起こさないし、サイトカインリリース症候群も起こさないので、他人のNK細胞を使っても問題ないので、患者本人のT細胞を使うしかないCAR-T療法と違って、安価に大量生産できる、と主張しています。 もっともセルライン化されたNK細胞ですから攻撃力が弱い上に、がん細胞を認識するセンサーがかなり脱落しているので、結局、CD19やCD33など、特定標的物質に反応する様に遺伝子改変を行います。 それでもCD19などの標的物質を発現するがん細胞以外は全く見向きもしないCAR-Tと違って、CAR-NKであれば、NK細胞自前のセンサーで、CD19とか、CD33とか、遺伝子改変で認識させる標的物質を発現していないがん細胞も攻撃するだろう、と期待しています。 

 

野生型と違って、活性が低いセルライン化されたNK細胞を活発に活動させるために、やはり免疫刺激信号が出続けるように遺伝子改変します。 そうなると、はてさて、野生のNK細胞のようなサイトカイン放出症候群を引き起こさないという性質は維持されるでしょうか。 信号出過ぎで、サイトカイン過多になるリスクはあると思いますが、ここはやってみないとわかりません。 少なくともT細胞のように本人だの、他人だの、ということにはNK細胞は反応しないので、他人のNK細胞を用いることが、他人のT細胞を用いることよりも有利なのは確かでしょう。

 

私どもは野生型のNK細胞の実用レベルの培養技術をもつ世界唯一のグループとして、わざわざよく調整されている大自然が生んだ「がん細胞を殺すために生まれてくる」NK細胞に余計な遺伝子改変をする気はないのですが、世界の研究者があくまでも、培養が難しい野生型に挑戦するのではなく、培養が容易なT細胞やセルライン化されたNK細胞を改造することに懸けていくという流れが全く変わる気配がありません。

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