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2019年02月08日

  

免疫

豚コレラの感染が拡大しています。法定伝染病に指定されていますので大きな騒ぎになります。法定伝染病に指定されると、強制的に感染拡大防止措置が取られ、そのかわり、国や自治体から補助金がでます。  

 

コレラという紛らわしい名前がついていますが、人間のコレラとは全く無関係です。豚コレラは人には感染しない(はず)と考えられています。

 

なぜ人には感染しないのか、と聞かれるのですが、ウイルスは感染する相手が概ね決まっています。豚のウイルスの大半は豚にしか感染せず、感染するものも相手の細胞のタイプが決まっており、通常はウイルスは細胞表面の特定のレセプターから感染していきますので、やみくもに感染することはありません。 時折、種を超えて感染するもの、特に人獣共通感染を起こすものは大きな問題になりますので注目されますが、ほとんどのウイルスはそもそも問題を起こさず静かにしており、人々に存在を知られることもありません。 伝染病として騒ぎになるウイルスはウイルス全体からいえばごく少数の例外なのです。

 

説明が後になりましたが、人間のコレラは土壌細菌、バクテリアです。 豚コレラを発症するのは「ウイルス」です。 およそ何の関係もないのですが、どちらも下痢の症状がでることからそのような名前になってしまいました。 人間のコレラの場合は、元々、土の中に住む細菌がたまたま人間の消化管に入ってしまうと、これを追い出そうとして激しい下痢になるので脱水症状で亡くなる人がでてきます。コレラには細菌毒がありますが、毒で亡くなるというより脱水症状の方が危険です。 土壌細菌として「定住」している地域では何をどうやっても感染を繰り返します。 今のところ抜本的な対策は想像することすらできません。 感染しないように人間の側で注意するしかありませんが、どこにでも菌がいるわけなので完全に防ぐのは無理です。 一方、日本のように土壌中にコレラ菌が定着していない地域でたまに旅行者などが海外で感染してから帰国しても、大きな流行にはなりません。  かつてはコレラ流行地域へ渡航するにはワクチンの接種が義務付けられた時代もありましたが、今はそんなことはありません。 ワクチンにはほとんど効果がないからです。 口から入って消化管内で増殖するコレラ菌に対して皮下注射される不活化ワクチンに予防効果がないのは当たり前なのです。 ましてやコレラは何度でも感染します。 自然免疫が強い人は感染しない、であって、一度感染したら免疫(獲得免疫)ができるからもう感染しない、というものではないのです。 かつては1年の3分の1は海外出張という時期もありましたが、様々なワクチンをうつことが義務付けられ、接種した証明となるイエローカードを傾向しないと入国を拒否されるのでやたらとワクチンをうっていました。 日本からひとつの国へでかけて戻るなら単純なのですが、Aという国へ入国してから、次にBという国に入国するのにA国経由の旅行者はXとYのワクチンをうっていないと入国が認められないが、Cという国へ入国するにはZのワクチンをうっていないと入国できない、でもA国ではなくD国から入国する場合は必要なワクチンが違う、、、、 という風になかなか面倒なものでした。 今日ではほとんどワクチン接種の義務はありません。 実際に感染予防効果があてになるのは破傷風トキソイドくらいであり、感染症の種類は山のようにあり、ワクチンが開発されて一般に普及している感染症はたったの十数種類しかないからです。 全部うっても全くカバーできていないわけです。

 

豚コレラが人間には感染しないのであれば、大騒ぎするような問題ではないように思われますが、実際は、大変な騒動になり、どう動くのか官邸も直接関与する事態になります。もっと感染力の強いものに口蹄疫がありますが、もう世界が終わるかのごとき大騒ぎになります。放置すれば病気自体は自然に治るのですが、猛烈なスピードで感染が広がり、徹底した封じ込めをしないと世界中がまたたく間に感染地域になります。 カナダの一本のソーセージから広がった口蹄疫があっという間に世界に伝播したという事件がありましたが、感染力・伝播力はものすごいものがあります。 人間の場合、しばらく苦しくても寝ていれば治る、その間、少し体重が減ったとしても命に別状ないなら、やむを得ない、となりますが、畜肉動物の場合は下痢や呼吸器疾患による体重減少は死活問題となります。肉を増量させて売るのが畜産業のお仕事ですから、体重減少や体重増加効率の低下は何のために飼っているのか、という事業性そのものに直接打撃を与えます。 また、豚の場合は子豚の死亡率が問題になります。 ストレスがかかると仲間の尻尾を噛み、感染症で死ぬものがでるので尻尾を切り落とし、また豚は大きな牙をもつので抜いておきます。 こういうことがストレスになっているはずですが、ともかく死亡率を下げるんだ、は至上命題とされてきました。 口蹄疫が流行すると子豚の死亡率は跳ね上がります。 感染発生となると即座に殺処分となりますが、口蹄疫感染国となると輸出はできなくなります。 豚コレラの場合は著しい体重減少を招くだけではなく、成獣でも死亡するので感染したらもう家畜として飼い続ける意味はなくなります。

 

一方、家畜にもがんは多いのですが、全く問題にされていません。 がんになるのはほとんどが内蔵、精肉するのは筋肉ですから、関係ない、ですまされています。 人間にとって、がんは死活問題、下痢はまあしんどかったで済ます問題。  家畜にとって、がんは放置され、下痢は死活問題として取り上げられます。 

 

豚コレラも、殺処分にするくらいなら、精肉して食べたらだめなのか、というと、法令で禁じられているということもありますが、もし法的にOKであっても、そして焼き豚にしてウイルスはもういない、とやったとしても、これは豚コレラに罹った豚の肉です、飼料効率が悪くなっていますので少し値段が高いですが、品質には全く問題ありません、と表示すると誰も買わないでしょう。 私も食べません、値段が高いなら。 同じなら食べるかもしれませんが、病気になった豚は肉質がよくないかもしれません。 現実問題として、今の制度の中では売るわけにはいかないということです。 売るわけにはいかないものは、餌をやるだけ無駄になり、また排便を続けることでウイルスをまき続けますから、感染拡大防止のために速やかに殺処分することになります。

 

かつて年間2000万頭分以上の豚の内臓抽出物を取引していたのですが、そのころ、もう30年も前のことですが、日本の豚の質はよくなかったです。豚のワクチンや医薬品の臨床試験にも立ち会いましたが、日本の豚が成育する環境は極めて劣悪で、疾病も多かったわけです。 最近では、産地ブランドを盛り上げながら、大事に育てた豚とか、飼育の仕方もずいぶんと多様化しています。まあ、豚の体形や表情をみれば誰でも一発で大事にされて育ったのか、ただの肉の塊として物扱いされて太らされたのか、すぐに分かるはずです。 日本は豚肉の輸入国でしたが、今や農業は日本の産業の中でかなり期待されている分野です。 日本の稼ぎ頭といえば観光業ですが、農業は国を支える基幹産業として期待されています。 何せ海外の信用が高く、日本なら変なことはやっていないだろう、安全だろう、味もいいだろうと、日本の農産物は海外で高く売れ始めています。 農林畜産・水産業の育成や国際化は国土保全や、食料自給率向上という安全保障上の観点からいっても望まれることですが、電気メーカー等が壊滅し、競争力を失っていく第二次産業に代わって、農作物を世界に売る、これは日本の基本的な政策になっていきます。 それだけに防疫体制の不備は大きな信用失墜につながるので重大な政治事案にもなるわけです。

 

さて、殺処分に対する批判もあります。なぜワクチンを使わないのか、と。封じ込めをあきらめない限り、今更、殺処分をやめることはできません。感染拡大防止にワクチンも併用するのかというと諸刃の刃となる可能性があります。 豚コレラの場合、生ワクチンを使用します。 不活化ワクチンとちがって生ワクチンは概ね感染予防効果を期待できます。 問題は、弱毒化したウイルスを投与してもリバータント、再強毒化したウイルスが方々で暴れるリスクもある、ということです。 人間のワクチンでも小児麻痺の予防として投与されるポリオワクチンは経口の生ワクチンです。 投与された子供には幸い事故はないので安全性が高いとされてきましたが、排便の中に再強毒化したウイルスが存在し、大人が二次感染する例が数十例報告されています。 今は自然感染はなくなっているのに、日本でポリオ感染というと、ワクチンによる感染のみ、という状況です。 豚コレラの場合も経口生ワクチンですから、どうしても排便中にウイルスがうじゃうじゃでてきます。 山間部には野生のイノシシや野生に戻った豚、イノシシと豚の合いの子などが、走り回っています。 ひとたび強毒株が出現するとあっという間に広がってしまいます。 今、どうせ感染が広がっているのですから、多少のリスクより今拡大中の感染の火を鎮めるために感染地域周辺に重点的に生ワクチンの投与という作戦は理論上はありですが、より広範な地域にウイルスをまいてしまうかも、という重い決断になります。 また、投与も大変です。口から投与するのですが、子豚ならともかく、大人の豚は飼育状況によってはかなり暴れます。 ほとんどの豚は生後半年ほどで数十キロの体重になり、お肉になるため短い生涯を終えます。 春生まれた子豚は冬を知らずにお肉になります。 ところが子豚を産み続ける母豚は3年以上飼育され続け、かなり巨大になります。 豚には鋭い大きな牙があり、通常、子豚の内に抜かれていますが、元来は行動的で怒らせると凶暴なイノシシを改造した生き物で、人を襲って食べてしまった豚の例もあります。 いろんなのがいますが、すべての豚に経口ワクチンと言われると、どうやってやるの実際? という難行となります。  臨床試験の時にも相当、苦労しました。 所定の量を確実にすべての豚に投与するとなると、かなり大変な作業になります。注射の方がまだ簡単ですが、消化管粘膜への感染を防ぐのに注射したのでは中々、効果がでません。 餌に混ぜるという手法は必ずといっていいほど検討され、私もいろいろ試しましたが、生ワクチンですから、安定性の問題と、投与量のコントロールは難しいです。 言うほど簡単ではない、そんな議論をしている暇はないので、バシバシと殺処分をするんだ、というのは現状ではしょうがない判断でしょう。 畜産農家さんのご不満は、初動が遅い! 封じ込めはすぐにやれば有効、問題が大きくなってからやれば、ただひたすら大変なことになります。 

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