TOPANK免疫療法とは>なぜNK細胞なのか

免疫を強く刺激すれば、がんは消失し、免疫を強く抑制すれば、がんは急激に悪化する。ここまでは、昔からわかっていることでした。ところが、「どの免疫細胞が主役か」はわからなかったのです。
T細胞や樹状細胞は古くから知られ、T細胞の一種であるCTLという細胞のほんのごく一部が特定のがん細胞だけを傷害することはわかっていました。ただ、個々のCTLは、特定のがん細胞以外にほとんど反応しません。
そこで、がん退治の本命を求め徹底した探索が行われました。健常者の血液にウイルスを混ぜるなど、非常に強い免疫刺激をかけておき、がん細胞を投入すると、どんながん細胞であってもたちどころに傷害されます。
そして、それまで名前もついていなかったリンパ球の一種が「がん退治の本命」であったと特定され、自然免疫の殺し屋「ナチュラルキラー(NK)」細胞と名付けられました。自然免疫とは、生まれながらに何を排除すればいいのか、自ずとわかっている免疫のことをいいます。学習プロセスは必要なく、出会ったその場で即応します。
人体から採りだされた「野生型」のNK細胞は、活性が高ければ、どのようながん細胞でも傷害します。これまで、傷害しないがん細胞は見つかっていません。

がん細胞を傷害するのは、基本的に2種類。NK細胞と、T細胞の一種であるCTLです。NK-T細胞やγ/δT細胞など、他にもがん細胞を傷害するものはいますが、これらはすべて、NK細胞とCTL両者の中間的な性質をもちます。

NK細胞とCTLの細胞傷害能力の比較

NK細胞とCTLの細胞傷害能力の比較

実際にCTLには、どの程度の傷害力があるのか、NK細胞と比較してみましょう。
標的がん細胞には、MHCクラスIという名札のような分子を持つものを選ぶ必要があります。なぜなら、CTLはMHCクラスI分子をもたないがん細胞は認識できないからです。CTLは、MHCクラスI分子にある微細な型が、自分のもっている型と合えば、相手ががん細胞か正常細胞かを問わずに傷害します。
一方、ANK療法のように、人体から採りだした「野生型」のNK細胞を適切に活性化した場合は、MHCクラスIを持つかどうかに関係なく、がん細胞を傷害できます。よって、CTLが標的としているがん細胞と同じ細胞で傷害力の比較をすることができます。

上記の実験では、乳がんの細胞(MHCクラスI+)とCTLを免疫刺激下で共培養し、標的がん細胞を傷害するCTLを選択的に増殖させます。
CTL作製に使用した標的がん細胞(MHCクラスI+)を対象に、CTLとNK細胞(ANK法)の傷害能力を比較します。

NK > CTL

明らかにNK細胞の傷害能力の方がCTLよりも高いことがわかります。

CTL療法は、ANK療法よりも様々な制約がありますが、そもそも、細胞一個当りの傷害力という点においてANKよりも劣ります。それでも、実際に顕微鏡下で、がん細胞を傷害することを確認したCTLを選択的に培養している手法は、他ではほとんど見当たりません。たとえば樹状細胞療法やがんワクチンと称する手法は最終的にCTLの誘導を期待して行われるものですが、実際にがん細胞を傷害することは確認できません。

なお、「NK細胞は、MHCクラスIを発現しない細胞を異常細胞と認識して傷害する」、あるいは「CTLがMHCクラスIの信号を標的としてがん細胞を傷害し、CTLの傷害を受けないMHCクラスIを発現しないがん細胞をNK細胞が傷害する」という説明をよくみかけます。
事実は上記写真のように、野生型で活性の高いNK細胞は、MHCクラスIを発現するがん細胞を、CTLよりも遥かに効率よく傷害します。ところが、活性が低いNK細胞や、研究者が研究用に用いる特殊な条件下で選別を受けた細胞(セルラインとか、細胞株といいます)は、野生の能力の一部を失っています。こうしたNK細胞の多くは、MHCクラスIを発現するがん細胞に対する傷害力が落ちてしまいます。治療用に野生型のNK細胞を培養した場合でも、培養プロセス中に負荷をかけるものがほとんどで、この場合もMHCクラスIを発現するがん細胞を傷害しない特殊なNK細胞が生き残り、増殖してきます。ANK療法の場合は、負荷をかけた選別を行わず、野生型そのままのNK細胞集団を増殖させますので、野生型の性質の通りに、MHCクラスI発現の有無を問わず、がん細胞であれば傷害します。

MHCクラスⅠを発現するがん(+)と、しないがん(-)に
対する免疫細胞の傷害能力の違い
MHCクラスⅠ (+) (-)
CTL ×
NK(低活性)
NK(高活性)

NK細胞は、多種多様なセンサーを何十種類も発現し、これらを駆使してがん細胞表面の「模様」、「顔つき」を見極め、正常細胞は傷害せずに、がん細胞だけを狙い撃ちします。がん細胞と正常細胞は、基本的に同じ物質でできていますが、細胞表面物質の分布パターンには違いがあります。
体内に分散するがん細胞を見分け、狙い撃ちできるのは、NK細胞以外に見つかっていません。がんという病気は、体内に飛び散ったがん細胞が増殖し、再発や転移を繰り返すからやっかいなのです。従いNK細胞の特性は、がん治療において欠くことのできない要素と考えられます。

実際、がん患者さんはこれまで調べた限り例外なく、体内のNK細胞の活性が下がっています。体内のNK細胞の活性と、がんの進行には深い関係があると考えられています。

加えて、放射線や抗癌剤治療によってもリンパ球はダメージを受けます。健康な方と比較してみるとそれは如実に分かります。以下の電子顕微鏡写真で丸い集団になっているのがNK細胞です。

抗癌剤・放射線治療後のリンパ球と健常人のリンパ球

がん細胞特異物質、つまりがん細胞には必ず存在し、正常細胞には存在しない特異的な物質、がん細胞を狙い撃てる目印になる標的物質は見つかっていません。そのため、物質である薬で、がん細胞を狙い撃つことはできないのです。がん細胞を傷害する全ての薬は、正常細胞も傷害し、正常細胞を傷害しない薬は、がん細胞も傷害しません。がん細胞だけを傷害できる薬は一つも存在しないのです。
また、これまで100種類ほど腫瘍マーカーが実用化されてきましたが、がん細胞特有の物質を用いるものは一つもありません。
細胞表面物質は、遺伝子レベルでは400種類(タンパク質のみ)ほど存在することが分かっています。その全てに対して複数のモノクローナル抗体がつくられましたが、がん細胞だけに結合し、正常細胞に結合しないものは一つも見つかりません。世界のバイオベンチャー、大手医薬品メーカー等が、数百品目もの抗体医薬品を臨床開発中ですが(検討された抗体の種類としては天文学的な数になります)、その中にがん細胞だけに結合し、正常細胞に結合しないものは一つも見つかっていません。
化学療法剤(殺細胞剤)は、開発の最初の段階から、物質そのものの性質として、がん細胞を狙い撃ちにすることは考慮されていません。
体内の免疫制御システムに作用する薬も、いくつも開発され承認されたものもあります。ところが、体内の免疫制御システムは非常に複雑であり、薬だけで思い通りに制御できるものではありません。インターフェロン製剤や、インターロイキン2製剤は、がん細胞を傷害する免疫を刺激しますが、大量投与でないと効果は期待できず、加えて副作用も激しくなります。一方、投与量を減らすと、安全ですが、効果がなくなります。
2015、6年頃話題になった免疫チェックポイント阻害薬等も、何十とある免疫チェックポイントの一つに影響するだけで、体内のがん免疫の本格化稼働には至りません。むしろ、漠然とT細胞を活性化してしまうので、正常細胞を傷害するT細胞も活性化され、重い自己免疫疾患を発症することがあります。

正常細胞を傷つけずに、体内のがん細胞を狙い撃ちできる、これは、NK細胞だけの得意技です。

生まれながらに、がん細胞を傷害する者として存在するNK細胞を、極力、野生に近い状態でそのままがん治療に用いる。これが王道である、と私たちは考えております。