TOPANK療法の特徴>何故、初めて遭遇する相手を認識できるのか

がん細胞は、正常細胞と同じ物質からできています。

がん細胞の多くに、特定の遺伝子変異が見られることはありますが、だからといって、同じ変異をもつ正常細胞も存在しますし、また、全てのがん細胞が特定の変異を持つ訳ではありません。

がん細胞に沢山、存在する物質であっても、特定の物質一種類を標的とすると、同じ物質が正常細胞にも存在するため、必ず、がん細胞も正常細胞も両方を攻撃することになります。がん細胞に大量に発現される物質を標的にモノクローナル抗体を作成しても、体内に投与すると、がん細胞よりも遥かに大量に存在する正常細胞にも結合してしまいます。特異性を徹底的に高めていくと、正常細胞に結合する頻度は下がりますが、今度は、標的のがん細胞にも結合しない事が多くなります。

単一標的に対する単一センサーを用いる限り、どこまでいっても、「信号とノイズのジレンマ」、つまり、がん細胞を撃ち漏らすまい、とする程、正常細胞を攻撃してしまい、正常細胞を攻撃しないようにすると、撃ち漏らすがん細胞が多くなります。

がん細胞と正常細胞では、同じ物質であっても、細胞表面の発現頻度や組み合わせのパターンが異なります。NK細胞は、がん細胞に多く発現する表面物質を認識するKARと呼ばれるレセプターを複数種類、備えています。また、正常細胞が強く発現している表面物質を認識するKIRと呼ばれるレセプターも備えています。KARがもたらす(+)の信号と、KIRがもたらす(−)の信号を総合評価して、がん細胞か、正常細胞かを判定します。

がん細胞、正常細胞、バクテリア、ウイルス、ウイルス感染細胞の大きさや認識シグナル

上の図は、がん細胞、正常細胞、バクテリア、ウイルス、ウイルス感染細胞の大きさや認識シグナルを模式的に表したものです。

バクテリアや、ウイルスは、ヒトの細胞には存在しない構造物をもっており、「赤」色で表しています。ウイルス感染細胞も、細胞表面にウイルス由来の物質を提示することがあります。バクテリアやウイルスは、特定物質を標識として認識し易いのです。例えば樹状細胞は、バクテリアやウイルス特有の構造物を認識するセンサー群のセットを生まれながらに持っています(実際には、体内で樹状細胞として成熟する過程で揃っていくのですが)。ところが、がん細胞には、そのような顕著な標的物質は存在しません。

上の図をみて、グリーンの物質を標的にすると、確かに、がん細胞を攻撃することができますが、同じ物質が少量ながら正常細胞にも存在します。体内全体では圧倒的に正常細胞の方が多いのですから、攻撃物質の大半が正常細胞に向けられることになります。

一方、パッと見だけで、正常細胞とがん細胞の区別がつくと思います。人間の顔をみて、女性か男性かは、通常、すぐに分かりますが、女性特異物質が顔にあるから女性だと分かるのではありません。上の図でも、ブルーとグリーンの比率を見れば、一目瞭然に両者を区別できますし、また、正常細胞では整然と、がん細胞では乱れて標的物質が並んでいます。二つの物質の比率を認識することは、抗体や、抗がん剤には不可能ですが、生きた細胞である NK 細胞なら容易です。

実際には、ブルーとグリーン、二種類の標的を認識しているのではなく、もっと沢山の標的(レセプター)を認識しています。そして、NK 細胞の集団の中で、細胞、個々にKARやKIRの発現パターンが異なります。あるNK細胞は、ある種のがんをよく攻撃し、ある種のがんは気がつかない、ところが別のNK 細胞は、逆の認識パターンを持ったりします。

KARセンサーからの信号強度が強いほど、相手が、がん細胞である可能性が高く、KIRセンサーからの信号強度が強いほど、相手が、正常細胞である可能性が高い、と認識されます。個々のNK細胞は、一種類のKIRしか持たず、KARについては、多種類をもちます。活性が低いと、KIRのシグナルが優先され、がん細胞を正常細胞と誤認識しますが、活性を高めると、大量・多種類のKARを発現し、がん細胞を逃さず捉えるようになります。

活性の高いNK細胞

上の図で、活性が低いNK細胞は、KARの種類も数も少ない、つまり、がん細胞を捉えるセンサーの種類も数も少ない状態を表しています。これでは、KIRが送ってくる信号の方が相対的に強くなり、がん細胞を正常細胞と見誤ります。一方、活性を高めたNK細胞は、種類も数も大量のKARを発現しています。KIRは、相変わらず一種類しか発現していません。この状態になると、がん細胞を見誤ることはなくなり、仮に特定のNK細胞が、特定のがん細胞を見過ごしたとしても、他のNK細胞が、異なるKAR/KIRのセットをもっていますので、撃ち漏らさず、相手を攻撃します。

キラーT細胞の場合、実際には、一種類ではないのですが、NK細胞に比較すると、遥かに単純な認識センサーしかもっていません。そして、特定のキラーT細胞は、ごく限られたがん細胞しか認識できません。また、全てのキラーT細胞を合わせてみても、攻撃できないがん細胞が多数存在します。

キラー細胞は、がん細胞をアポトーシスに追い込む物質、爆弾の入った小さな泡のような袋をもっています。活性の低いNK 細胞は、この爆弾が少ないのです。キラー T細胞も、活性の高い NK 細胞に比べれば、爆弾の量が遥かに少ないのです。この爆弾は、自分にも当ってしまいます。そこで、キラー細胞は、大量の細胞間接着物質(=糊)を分泌し、がん細胞にべったりとくっついて、それから、爆弾を送り込みます。活性の低いNK 細胞は、この糊も少ないので、細胞一個一個がバラバラの状態です。ところが、活性の高いNK 細胞は、大量の糊を分泌しますので、お互いにくっつきあい、大きな塊となります。