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2019年02月21日

  

がん, 免疫

CAR-T療法の一種CTL019「キムリア」 の承認取得が事実上決まりました。 まだ正式に承認されたのではありませんが、一番の山を越えたので、あとは手続きを進めていくだけです。 3月中の承認になるのでしょう。 承認取得時点で、「販売」は可能ですが、まだ自由診療ですし、添付文書を配布することができません。 通常、販売は行われません。 承認された新薬、この場合「再生医療製品」という言い方をしますが、承認後に中医協という組織にバトンが渡されます。 そこが薬価を決め、薬価収載後に公的医療保険が使えるようになり、また添付文書を用いた医療機関への広報活動が認められるようになります。 

 

その薬価がどうなるかですが、5月に決まるのでしょうか。 もめなければ5月に決まるはずです。この製品、適応範囲が狭いので高くしないと申請費用を回収できません。 かなりの高額になるのでしょう。保険行政の財政への影響を懸念する声もありますが、CAR-Tは結局、CD19以外は中々うまくいっていませんので、多くのがんに適応が広がるということはありません。 といっても理論上は、CD19を発現しているあらゆるB細胞系のリンパ腫に効果を発揮する可能性がありますので、長期的にみて、それほど小さい金額とも言えません。 その時は、数量拡大に応じて薬価を低くすることになるでしょう。

 

一方、米国で点滴一回47万5千ドルに付帯費用が同額から2倍、つまり最大で1億5千万円ともなると、その3割を負担する患者さんにとっては大きな問題になります。

 

CAR-T療法はT細胞をベースにしますので、がん細胞を狙いうつことはできません。あくまで特定の標的物質に反応するだけです。CTL019の場合は、細胞表面にCD19という物質を発現する細胞を、がん細胞・正常細胞区別なく攻撃します。 CD19はB細胞によく見られる物質ですので、正常なB細胞とがん化したB細胞が攻撃を受けます。 そのため、抗体が激減することになりますので、グロブリン製剤で補充する、など、補助療法が必要になり、こちらの費用もかさみます。 また、寛解率は高いのですが時間の経過とともに再発率も上昇していきます。 CD19を発現しないがん細胞も混じっているからです。 単一標的物質を狙って攻撃する場合、正常細胞も巻き添えにする問題だけではなく、打ち漏らすがん細胞も少なからずいる、ということがあります。

 

T細胞のもう一つの問題は、免疫抑制が強いがん患者体内では直ちに活性低下することです。この問題をクリアするためCAR-T療法では、常時、強い免疫信号が出続ける遺伝子改変も施します。そのため、CAR-Tは体内でも活動を続けるのですが、サイトカイン放出症候群や数々の自己免疫疾患を起こします。これらを抑える補助療法も様々、必要になり、すでに先行してCTL019の副反応を抑える補助療法の適応拡大を済ませている分子標的薬もあります。目の前の問題一つをクリアするために問題を解決したと思ったらどんどん問題が大きくなり更に多くの問題解決手段を提供しないと患者さんが持たない、という拡大サイクルに突っ込んでしまっているのがコストを押し上げる要因になっています。 

 

今後ですが、どうやってもCD19以外に適切な標的物質がみつかりませんのでCAR-T療法については、これで打ち止めです。 何かいい候補物質がみつかったとしても、まずその標的物質を狙う分子標的薬を開発するのが先です。 CAR-Tの開発を行うのはCD19のように分子標的薬が使えない標的物質である場合に限りますが、もう探し尽くしてますので、今更、多くのがん細胞に普遍的なものはみつかる見込みがありません。 特定のがん細胞の更に一部のものに限れば、特徴的な変異がいくつか知られていますが、同じ患者さんの体内であっても、全てのがん細胞が特徴的な変異をもっているわけではありません。特定物質を標的にする手法は現在、非常にニッチな特定のタイプのがんの更に特定の変異をもつ特殊ながんに特化した開発に集中してきています。

 

それでも大手各社はCAR-T療法の開発を継続していますが、焦点はまず無秩序に出過ぎる免疫刺激信号をもっと制御できないのか、ブレーキをかける遺伝子改変を加えるというポイントです。 コストダウンのためには他人の健常者のT細胞を使えばいいのですが、T細胞の場合は拒絶反応を起こしますので各社とも他人のT細胞の使用はあきらめているようです。 そこで他人の細胞を拒絶しないNK細胞を使う研究も盛んですが、培養が難しいNK細胞に遺伝子改変を加えて更に複雑なことをやるわけですから材料にするNK細胞はセルライン化されて培養は容易になったものの、攻撃力がガタ落ちになり、がん細胞を認識するセンサーもずいぶんと畳み込んでしまったものに研究者が集まっています。 

 

固形がんに対するCAR-T療法はHER2を標的にするもの、EGFRを標的にするものなど散々、試されたのですが、うまくいきません。 いや、固形がんにも有効だったと主張するベンチャー企業と武田薬品さんが組んで治験を行うのですが、うまくいったケースというのがマウスに無理矢理、ヒトのリンパ球系のがんの腫瘍をつくらせたというものなので、はて患者さんの体内の本物のがん組織を攻撃するかどうかはやってみないと全くわかりません。

 

ともあれ、法整備が進み、免疫細胞療法も承認取得できる状況になりました。 ANK療法も承認申請の計画はできていますが、何せ莫大な資金が必要ですので、今は資金集めです。 

 

ANK療法の場合は、野生型のNK細胞をそのまま用いますので、がんの種類は問いませんし、T細胞と違って免疫刺激作用が強いですから遺伝子改変の必要なく、がん細胞の攻撃を終えれば自然に沈静化します。自前のブレーキがついていますのでその意味でも遺伝子改変は不要です。 もともと、がん細胞を認識する最高のセンサー群をもつように生まれてくる細胞ですので、標的を指示する遺伝子改変も要りません。  また、サイトカイン放出症候群は起こしませんし、T細胞と異なり正常細胞は攻撃しません。他人の細胞を攻撃するのはT細胞の特徴的な性質です。 NK細胞は他人の正常細胞も攻撃しませんので、他人のNK細胞を用いて量産すればコストも下げられます。 発展性はCAR-Tとはけた違いにあるのですが、闇雲に承認申請コストをかけると薬価がとんでもない価格になりますので、無駄な書類やデータを徹底排除して、安く申請できるようにすることで、健康保険行政への財政負担も抑え、患者本人負担も抑え、素早い適応拡大が見込めます。 これまで承認申請にはあまりにも無駄なコストがかかり過ぎていたのですが、それは厚労省が要求してきたのではなく、メーカー側が自ら進んでやたらと、やらなくてもいいような試験まで実施してきたのです。 国はガイドラインを定めているだけで、そのガイドラインに沿って、どのようなデータを揃えるか、メーカーが自分でデザインします。その際、ひたすら重箱の隅をつつくように、そこまでやるの! というデータをとりまくってきたわけです。もうそういう文化が染みついています。 それぞれの専門部署は一生懸命仕事をしているだけなのですが、結果的に膨大な申請費用となり、あらゆる経費が膨らみ、それにかける利益率ということで膨大な収益をもたらします。  また、その方が競合に対する参入障壁にもなります。

 

 医薬品は高くするほどよく売れ、利益がでる不思議な収益構造をもっています。 ANK療法については極力高くしないで、素早く多くのがん種に適応拡大することを狙っていきます。

 

 

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