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2016年12月31日

  

がん, 免疫

 

 

免疫療法の研究者の間でもっともHOTな話題といえばCAR-T療法でしょう。

 

CAR-Tとは、T細胞に、遺伝子を人工的に加えたものです。

 

標的細胞の信号を認識する遺伝子を導入することでがん細胞への攻撃性を高めることを目的としています。

 

実際には、そう簡単にはいきません。

 

そもそも、T細胞が認識・攻撃するがん細胞はごく一部の限られたものです。あるT細胞が、あるがん細胞を攻撃したとしてもそのT細胞は、「隣のがん細胞」を攻撃しません

 

これでは実際の治療の役には立ちません。そこでT細胞に標的細胞シグナルを認識するセンサーをいくつも導入しようということが考えられたのですが、結局、単一物質として探し求める限り、がん細胞特有の顕著な標的シグナルは存在しませんので最初から無理があります。

 

がん細胞を傷害することを本職として生まれてくるNK細胞を活用すれば如何なるがん細胞でも認識し攻撃します。ところがNK細胞の培養が困難であり真正面から本格的なNK細胞の培養に取り組んだANK療法がありますがこれは非常に珍しいものです。ほとんどの研究者は培養が容易なT細胞や樹状細胞を何とかがん治療に応用しようとします。

 

それでも無理があれば遺伝子改変をいとわずという潮流になっています。

 

 

そして、T細胞を遺伝子改変して培養し実際に、なんとか臨床上の効果をあげているのが抗CD19 CAR-T です。

 

他のものは、なかなかうまくいってません。

 

CD19というのは、がん細胞特有のものではありません
悪性リンパ腫によくみられる物質ですが、元々、正常なB細胞などに多く発現しています。

 

研究者は、特定のセルラインに発現する標的にとらわれてしまいますが、がん細胞集団は「超」雑種ですので、そういった「試験管」の中だけの世界で開発努力を重ねる限り体内のがん細胞を幅広く攻撃する技術は生まれてきません。

 

結局、実用的な治療の開発となると正常細胞にも、がん細胞にも、ごく普遍的に存在する標的物質を対象にして、それでも、抗がん作用を発揮できるよう工夫するしかありません。

 

さて、悪性リンパ腫を対象とする分子標的薬の開発段階ではCD19をはじめ、CD20、CD21、CD23などB細胞表面に発現するマーカーを標的とする抗体が次々につくられ、試されました。

 

ところが、エンドサイトーシスというのですが抗体が細胞表面抗原に結合すると、抗原・抗体結合体のまま細胞内に取り込まれてしまいます。

 

悪性リンパ腫の治療薬としては、標的マーカーを消すことに何の意味もありません。抗原と結合した抗体が引き金となって周辺の炎症爆弾物質(補体)の起爆スイッチを押し炎症反応を誘導することによって標的細胞を破壊する必要があります。

 

体内には起爆装置をはずした状態で、大量の炎症爆弾が用意されています。抗原に結合した抗体などが引き金になって、一気に炎症反応が誘導される仕組みになっています。

 

抗体医薬品の中には、ADCC活性によりNK細胞の活性を高めるものと、炎症反応を誘導し無差別に標的細胞を破壊するタイプのものがあります。ADCC活性だけならNK細胞は正常細胞を攻撃しないため副作用は抑えられます。ところが、炎症爆弾を誘爆させるものは標的細胞が正常細胞か、がん細胞かを問わず猛爆するため副作用が激しくなる傾向があります。

 

 

炎症反応を誘導するタイプの抗体がB細胞特有の表面物質に結合することで、悪性リンパ腫細胞のみならず、正常なB細胞も破壊されます。ですが、標的マーカーを出さない他の正常細胞には被害が及びません。

 

そのかわり、効果が期待できるのは悪性リンパ腫のB細胞型だけです。

 

CD19,CD21,CD23,いずれのマーカーにおいてもこれらを標的とする抗体は直ちにエンドサイトーシスによって細胞内に取り込まれてしまうため、補体爆弾を爆発させる間もなく薬効を発揮できませんでした。

 

その中で、生き残ったのが、CD20抗体です。

 

抗CD20抗体も、エンドサイトーシスは受けるのですがはるかに受けにくいため、薬として使える、となったのです。

 

こうして、抗CD20抗体は、分子標的薬リツキサンとして開発されました。

 

 

その点、CAR-T療法の場合は、T細胞から突き出ている認識レセプター(抗体についているものと基本的に同じ構造です)が標的細胞の抗原と結合しても、エンドサイトーシスを受けて細胞まるごととり込まれることはありません。そのため相手がCD19でも問題なかったのです。

 

 

つまり、B細胞由来のがん細胞を攻撃するものの正常なB細胞も攻撃してしまうリツキサンが実用化されたように、抗体を使えなかったCD20以外の標的物質であっても、正常なB細胞とともに、B細胞由来のがん細胞を攻撃するCAR-T療法はある程度の効果を期待できるわけです。

 

もちろん、悪性リンパ腫B細胞型以外には効果は期待できません。

 

結局、がん細胞特有のシグナルというのは単一物質としては存在しませんので、どこまでいっても、CAR-T療法でがん細胞を狙い撃つということはできません

 

あくまで、抗体医薬品と少し異なる特性をもつものという範囲でしか実用化は期待できません。

 

 

抗体医薬品が魚雷艇なら、CAR-T療法は駆逐艦クラスに魚雷を積んで、もう少し使い勝手が広がる、というものですがどこまでいっても、特定の物質に反応するしかなくその特定の物質を、何種類かに増やすことはできてもやはり限界があります。

 

また、どこまでいってもT細胞ですからNK細胞とは比較にならないほど攻撃力が弱いという弱点はそのままです。

 

数を増やせるというメリットがあるではないか、という考え方もあるのでしょうが、NK細胞なら体内に1000億個もいますので、これの目を覚ます方がはるかに強大な戦力となります。

 

T細胞で、1000億個のNK細胞に匹敵する攻撃力を確保しようとすると、兆の単位の細胞数が必要になります。 そこまでいくと現実的ではなくなります。

 

もっともCAR-Tを作成する際には、がん患者さんの体内の強い免疫抑制により活性が低下してしまうのを防ぐ目的でCAR-T細胞内の信号が常に活性化状態を維持するように別途、遺伝子改変を加えます。
すると今度は、いつまでも攻撃を継続しようとするので正常細胞への攻撃もずっと続けようとし免疫刺激物質も放出しっぱなしとなることで激しい副作用を招いてしまいます。

 

 

結局、T細胞という脇役をいじっても、脇役のままであることに変わりはなく、無理に強くし過ぎると今度は副作用もひどくなるということです。 がん細胞を特異的に傷害し正常細胞は傷つけないつまりがん細胞を狙い撃ちするNK細胞と異なり、T細胞はがん細胞だけを攻撃することはできませんので、効果と安全性のジレンマがどこまでもつきまといます。

 

 

なお、細胞表面のシグナルとして重要なのは、ペプチドよりも糖鎖です。 ペプチドは、ある程度まで、遺伝子レベルで制御できるのですが、糖鎖は制御できません。

 

NK細胞のセンサーというのは、何十種類もあるのですが糖鎖に反応するものもたくさんあります。

 

CAR-T療法をどこまで発展、改良させても、遺伝子を導入するというやり方では、ペプチドしか制御できないので細胞認識能力の向上には限界があります。

 

 

研究者は、研究者都合で、研究しやすい素材を選んでしまいます。

 

培養が難しいNK細胞ではなくて、容易なT細胞や樹状細胞

 

合成・分析ともに困難な糖鎖ではなくて、簡単なペプチド

 

解析困難な細胞質や細胞膜のダイナミズムではなく、遺伝子

 

野生型ではなく、セルライン化された細胞

 

 

こうした研究者の傾向は、予算をもらいにいって素早くデータをだし、論文を書き、その論文を多くのほかの研究者に検証される、つまり高度な職人的な技術を用いずに再現可能というプレッシャーや諸条件の中から止む無く醸成されてきたものです。

 

 

ところが、現実のがん治療では、

 

 

相手は、

 

生き物であり

 

正常細胞以上にはるかに超々雑種であり

 

多様であるだけでなく、変異性に富み

 

ペプチドや遺伝子のような単純な物質だけではなく

 

複雑な構造をもつ糖類や脂質などの複合体であり

 

絶えず変化し、複雑な制御系をもつ細胞質や細胞膜

 

あるいは、

細胞骨格といった研究者泣かせのデジタル解析困難な挙動を示すものであり

 

 

また、細胞を扱うにあたっても

 

野生型で、絶えず、要求つまり最適培養条件が変化するもの

 

 

などなど、研究対象としては、扱いにくいもの、効率よく研究データや論文を書けないものが相手です。

 

 

人の命が助かる」技術を開発する、あるいは用いるという原点に帰らない限り、何のためにやっているのかわけがわからない研究に、膨大なリソースが投入され続けることになります。
がん治療なら、がん細胞を傷害するために存在するNK細胞を使う
ここが「要」です。

 

 

 

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