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2019年11月01日

  

えとせとら

三菱の国産ビジネスジェット「スーパージェット」(元MRJ)の注文100機分がキャンセルされたと報道されていますが、そもそもなぜこの飛行機がこんなに苦労するのかについて憶測が飛び交っています。

 

以前にも書いたのですが、改めて、なんで? という話が多いのでさっくり目に説明させて戴きます。

 

カーボン繊維をエポキシで固めたFRPの使用比率を全体の3割程度まで高め、機体を軽くすることで「燃費がいいんだ!」をセールストークとして受注活動をやってしまいました。ジャンボ機やエアバス機でも新型機はFRP比率を高めて燃費改善を図りましたのでここまでは世界の趨勢に乗っただけとも見えますが、大型機ではなく小型(中型?)の旅客機に関しては先陣を切ったともいえます。

 

問題はカーボンを多用すると落雷リスクが高くなることです。 

 

ジャンボ機でも787の初号機納入(ANA向け)が遅れてしまい、よく報道されていましたが同じ理由です。そこで機首に積乱雲を捉えるレーダーを追加装備し、とにかく積乱雲を前広にみつけて必死に避ける (対策①)   垂直尾翼に落ちやすいという説を踏まえて落雷を呼び寄せ、地上に誘導する避雷管(まあ、棒が突き出ているとお考えください)を並べる(対策② 実際は多くの落雷は雲と飛行機の間を数十万分の1秒の間に往復するのですが)    落雷したとしても要するに燃えなければいいのだろう、と、燃料満杯の主翼の前縁に巨大な窒素ボンベを搭載し、主翼の燃料が燃え上がらないように大量の窒素で酸素を追い出し最悪の事態を避ける(対策③) という三段構えの対策で納入にこぎつけました。 その窒素ボンベ実際に写真だけ見ましたがとんでもなく巨大で主翼前縁をある程度カバーする長さがあり一抱えもある太さです。 魚雷よりはるかに巨大と言ってもピンとこないかもしれませんが、正確な数値は覚えていませんので適当な言い方でご容赦ください。 当然、重いわけですから燃費は悪くなります。  巨人機の場合はそれで手を打ったのですがコンパクトなリージョナルジェット、客席数が数十席~100席未満クラスで巨大窒素ボンベを搭載すると極端に燃費が悪くなります。そこでFRP比率を15%位まで下げることにし、落雷リスクを下げながら多少の燃費低下はやむなしという落としどころを模索したわけです。

 

一度、基本設計を変更すると大変です。

 

自動車の排気ガスからオイル微粒子を除去するDPFフィルターに採用された新素材とカーボンファイバーの複合体であれば落雷実験にも発火せず耐えていますが、試験飛行前に新素材採用というのははなから論外とされたようです。 少なくとも落雷しても発火しないのであって、落雷しなくなるわけではありませんので、やはり落雷しないように考えるのが民間機の基本です。

 

落雷リスクが高い尾翼を中心に設計変更を繰り返し、どこかをいじるとまた別のところがという悪循環にはまってしまったわけですが、セールストークにした燃費について「ごめんなさい」をやるという選択肢は採択されず、あくまでも工夫に工夫を重ね、燃費も言った通りですよ~~ で通す構えのようです。 

 

操縦のしやすさや故障の少なさ(ライバルのボンバルディアは故障多発が問題とされていました)などをセールストークとしていればまったくちがった展開になっていたかもしれませんが、何せ燃費を強調したら燃費の良さをクリアしなければなりません。

 

 

なお飛行機に雷が落ちるのかと不思議がる方もいらっしゃいますが、落ちるものなので、実際には落ちないように工夫して飛んでいるのです。 小松基地の自衛隊F104戦闘機がコックピットに落雷し墜落した事件は有名で、穴の開いたコックピットが基地に展示されていましたが飛行機は落雷しやすい、のは飛行機業界の常識です。 

 

半世紀以上、飛行機のスピードは変わっていません。 スピードを上げるほど落雷リスクが高くなるからです。800~900キロ位で飛んでいると、そうめったに落雷しません。 なのでおおむね旅客機はそれくらいのスピードで飛び、できれば成層圏近くを飛び(積乱雲は成層圏を突き抜けることもありますが、そこまで上がってこないものも多くあります)、低い高度を飛ぶ離着陸時にはゆっくり飛び、積乱雲を可能な限り避けて飛ぶ、といった工夫をしています。 ところがカーボンを使うと落雷リスクが高くなります。 

 

軍用機はカーボンを多用しますが理由は燃費だけではなくむしろ高いGに耐える強度や電子戦上の理由が大きいのですがもちろん大量の弾薬を搭載したいため機体重量を抑えるという目的もあります。 ところが非常に落雷リスクが高くなりますので「戦争は夜やる」ようになってきたのです。  もちろん戦争を夜やる理由はその方が電子や赤外線の目で標的を見るハイテク兵器の優位性を発揮しやすいという事情もあります。   最新型のステルス機は落雷リスクが高いほか、機体表面が傷つきやすく、飛ぶたびに修理代が大変など様々な問題を抱え、米軍も新鋭機部隊の展開や実戦使用には慎重です。 ついにはベトナム戦争のころに概ね完成していたF15戦闘機の新規発注を発表しました。現場からはベトナム戦争当時にすでに飛んでいた機体の方が実戦的で使いやすいという声が根強いようです。  ステルス性を気にせずどかどかと多数の爆弾を機体の下部にぶらさげる設計なので、その分、機体の弾倉に爆弾を格納することなどを考えるステルス機よりも地上攻撃力が強いという一面もあります。  F15戦闘機は機首にお椀型の巨大レーダーをもち、これが反射板として作用するため余りにも効率よくレーダー波を跳ね返す「見えやすい」機体であったため、今風の半導体三次元レーダー(平らな大きな部品がありません)に置き換え、ステルス性の改善を図りながら生き残ってきたのですが、今後、実戦では主役であり続ける可能性があります。マッハ2.5とか書いてありますがそんなスピードを出せばすぐ燃料切れになるので実際には超音速を出すことはほとんどなく、最新のF22を除けば実戦で本当に超音速を出す前提の飛行機はほとんどありません。 もし昼間、積乱雲の近くを超音速で飛び続けたら一発で雷をくらいます。  戦略爆撃機B5は1955年に実戦配備が始まった65歳という年齢の機体ですが2045年までは実戦配備が続く予定です。 あのゆっくりと長時間、空に滞在できる能力は新鋭機には真似ができないために後継機の方から先に退役していきました。B52は核兵器を搭載する機体としては落雷リスクも含めて「安全」と考えられているわけです。

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