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2019年03月19日

  

がん, 免疫

日本でもようやく免疫細胞療法が承認取得、保険適応になる法整備が整い、今後は莫大な申請費用をどう用意するかという問題はあるものの、効果を発揮できる免疫細胞療法は保険診療に組み込まれる時代となりました。 

 

国内承認第一号は圧倒的な資金力をもつメガファーマのCAR-T療法「キムリア」で、早ければ5月には薬価収載となる見通しですが、米国ではキムリアのほかに同じCAR-T療法の「イエスカータ」や、樹状細胞療法として開発されたものの奏効せず、NK細胞を若干混ぜることで効果を証明した「プロベンジ」などが承認取得されています。 イエスカータはベンチャー企業が開発したものですが資金が続かず、メガファーマが会社ごと買収し、承認申請に漕ぎつけたものです。 プロベンジは米国国立衛生研究所NIHの膨大なデータをベースに、1000億円の資金を集めたベンチャー企業がどうにか承認取得に漕ぎつけましたが、この程度の資金ではごく一部の患者さんだけを対象にした承認しかとれません。 結局、承認されたものの事業としてはうまくいきませんでした。 

 

免疫細胞療法は申請費用がすさまじいものになって、「製造」原価も高いのかというと、現状はそう見えるのですが、それは医薬品と同じ扱いをされるからです。 まず本人の細胞を用いるものである限り、動物実験を行う意味はありませんので、他人の細胞を用いる場合でもわざわざ人の細胞をネズミに投与したところで人体内とは全く状況が違うので、何のために実験をしたのかもよくわからなくなります。こうした医薬品開発の長い歴史の中で決められた過去の因習を徹底して洗い直し、「余計な」試験をやめることで申請費用は激減します。 細胞医療には細胞医療にあった承認審査体制を洗練させていくことで無駄な費用がなくなり薬価を抑えても申請企業の利益を確保できるようになります。

 

米国ではこうした議論よりもむしろ、供給体制の議論が活発です。 医薬品は工場で集中的に量産して流通させるのが基本です。米国内どころか、医薬品有効成分の多くはインドで量産され、錠剤など最終製品の形にする工程はカナダが得意で、パッケージやデザインは米国が得意、前臨床試験は台湾で行う、など国際分業体制が整っています。 ところが、免疫細胞療法の場合、特に患者さん本人の細胞を用いる場合、どこか一か所に製造拠点を集中させると臨床現場からの輸送距離が長くなります。 医薬品の場合は、値段に占める輸送コストなどほぼ無視できるレベルですが、免疫細胞療法の場合は、まず患者さんから採取した細胞を生きたまま培養センターへ運び込み、培養後にやはり生きたまま臨床現場へ送り返さないといけません。 今日では人間の生きた細胞をグローバルベースで流通させる仕組みが構築されつつありますが、培養センターを分散展開する方がいいのでは、という議論も活発です。 医薬品工場は巨大です。 化学合成の医薬品、特に抗菌剤の量産が始まったころは石油化学コンビナートの隣に医薬品量産プラントが立ち並びました。 それはそれは壮大な眺めです。 ドイツのレバークーゼン(バイエル)とか、ニュージャージーのメルク・シャープ・アンド・ドームとか今でも巨大工場が並んでいますが医薬品製造の大半は装置産業として栄えてきました。

 

一方、バイオテクノロジーはキッチンテクノロジーとも呼ばれ、巨大工場など必要なく、台所で作業できるもの、と言われてきました。 うちのクリーンルームは台所というより大きなホテルの厨房くらいの大きさがありますが、たしかに巨大プラントとは程遠いコンパクトなものです。 また米国では、細胞培養工程を完全自動化すればせいぜい大き目のコインロッカーくらいの箱そのものが、GMP工場とみなせるではないか、といった議論が展開されています。 その大き目の箱を病院内に置いて回ればどうなのか、と。 GMP工場としての箱を販売して、病院内で培養を行い、箱の利用料を請求する、こういうビジネスモデルも考えられています。 こうなってくると、従来の薬事法の概念では整合性がとれないことがいくつもでてきます。 現実問題として、まだまだ免疫細胞療法の培養には高度な技術が必要で、病院内で片手間にできるものではありませんし、病院業務と培養業務はかなり異なりますので、もちは餅屋の方が安全性や品質確保の点では有利です。 実際、大学内で培養するとよくマイコプラズマなどのコンタミネーションを起こすので、細胞培養は臨床現場から離れたところで行うのが原則です。  

 

まだまだ解決すべき問題も山積みですが、化学物質を量産して流通させる医薬品と生きた細胞を扱う免疫細胞療法にはかなりの相違点がありますので、供給体制、流通体制、審査体制、品質管理の考え方、あらゆる面で細胞医療に合わせた仕組みづくりが急務です。

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