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2020年08月04日

  

免疫

メディネットさんと「国がん」さん(国立がん研究センター)が、樹状細胞を用いた新型コロナウイルスに対するワクチン開発に向けての共同研究契約を締結したと発表されています。

 

樹状細胞が細菌やウイルスなどの感染症を認識すると、他の免疫細胞に「出動」を促す仕組みが解明され、ノーベル賞が授与されています。受賞理由の根幹は自然免疫が獲得免疫の発動を誘導する、獲得免疫が「先進的」で主要な免疫システムであり、自然免疫は補助的な古く精度が低いものという自然免疫免疫というイメージで語られることが多いのですが、自然免疫は免疫システムの根幹であり、獲得免疫に対して司令塔的な役割も担っていること具体例の証明というインパクトがあります。 一口に免疫といっても感染症免疫もあれば、がん免疫もあり、多くの疾病の原因になると考えられる自己免疫もあれば、病気に直結しない免疫の働きもあります。免疫というのは複雑なのですが、樹状細胞が感染症免疫において司令塔的な働きをする機能についてはよく研究が進んでいます。今回は感染症免疫の司令塔役を感染症に対して使うという話ですから、科学的にはある程度、妥当性のある話ということになります。

 

樹状細胞というのは粘膜の基底膜付近、平たく申し上げれば粘膜の「奥の方」や、リンパ節などに普段は張り付いています。血液の中にはほとんどいません。張り付いているとはいえ、刺激を受けた時など、移動することもあります。

 

樹状細胞はまず、「どこにいるか」が重要な意味をもちます。感染症が発生しやすい場所に張り付いて待機しているのです。樹状細胞が腸内に出張っていくと、周囲は細菌だらけですから、それでいちいち感染症の警報を出すのは無意味です。細菌がたくさんいるのが「普通」のところではなくて、本来いてはまずいところ:「ここに細菌やウイルスが大量にいる」と、それは「感染症の発生」である、という場所に予め配備されているのです。そして細菌やウイルスと多少接触したぐらいでは騒ぎません。 大量の細菌毒素や細菌にしか存在しない物質を検出すると警戒モードに入ります。たとえば人間の細胞には細胞膜がありますが、細菌には細胞膜の外側にもっと丈夫な細胞壁があります。人間の細胞には一切、細胞壁はなく、そして細胞壁には特有の物質があり、その特定物質ペプチドグリカンを「大量に」認識した時に警報を発します。 ウイルスにはそこまで顕著な「特異物質」はありませんが、それでも二本鎖RNA(RNAの鎖が二本、互いに結合し螺旋状に撚り合うように絡まっているもの)をみつけたら、これは人間の細胞にはありそうであまりないものですので、二本鎖RNAタイプのウイルスが大量にいる、ということになります。新型コロナウイルスは一本鎖のRNAウイルスですので、こうなると人間の細胞から時折、流れ出るRNA一本鎖もありますから、あまり区別がつかなくなります。人間の樹状細胞はまず10種類のTLRと呼ばれるセンサーを用いて、「事件が起こっている」ということを認識します。TLRの各々のタイプが、それぞれ先ほどの細胞壁の構造物質など、細菌や多くのウイルスに共通の特徴的な構造として存在するものに対応しています。新型コロナウイルスの場合は、樹状細胞のTLRにピタリ一致する明確なシグナル構造は見当たりませんが、それでも、ウイルスゲノムにはよくあり、人間のゲノムにはあまり見られない特徴的な繰り返し塩基配列パターンというのがあります。また、体内では樹状細胞自体が「今、何か事件が起こっている」という基本認識を自分でもてなくても、マクロファージ等、他の免疫細胞が騒いだ場合は、刺激を受けて警戒モードに入ります。例えば、マクロファージにウイルスが感染すると、マクロファージからは警報物質としてインターフェロンαが放出されます。これが樹状細胞をはじめ他の感染症免疫担当細胞に警戒態勢に入ることを促します。なお、インターフェロンαはがん免疫にはあまり作用はしません。

 

感染症免疫の警報体制は、まずウイルスの抗原がどうのこうの、というより、異常なレベルで細菌やウイルスが「いてはいけないところ」に大量に存在する、という「一次情報」がもたらされることで「動員体制」となっていきます。 どんな敵がきたかより、まず「敵襲!」の第一報が大事なのです。 その次が「歩兵部隊」なのか「騎馬隊」なのか。 細菌の大集団なのか、ウイルス集団なのか、ですね。 細菌とウイルスによって、活性化されるT細胞のタイプが違ってきます。また、細菌の大集団となるとB細胞に強く動員がかかり、抗体産生を促します。  ワクチンをうつ場合も、感染力をもつ生ワクチンの場合はそのままでいいのですが、感染力を極端に弱めた不活化ワクチンなどを用いる場合は、必ず「強い免疫刺激」を加える「アジュバンド」というものを混ぜています。抗原提示前に、警報を発して興奮状態にしないと抗原に反応してもらえないのです。

 

樹状細胞が「ウイルスの異常増殖が起こっているようだ」と判断すると、今度は、ウイルスの断片などを細胞内に取り込み、分解して、ちょうど抗原として認識しやすい適切な長さのペプチド(アミノ酸が何個かつながたったもの)にし、これを細胞表面のレセプターにはりつけます。 そして「キラーT細胞」とか「CTL」と呼ばれる標的細胞に体当たり攻撃をかけるT細胞を刺激するシグナルを出しながら、同時に先ほどのウイルス特有の抗原を提示し、抗原と型が合うCTLを活性化させます。 今度は「敵襲!」だけではなく、どんな敵なのか詳細を分析して、今、体内で暴れているウイルス特有の目印を標的としてウイルス感染細胞を攻撃する専門部隊に動員をかけるのです。 ウイルス抗原の型を認識するCTLが急激に増殖し、ウイルス感染細胞を攻撃し排除していきます。体内のフリーのウイルスはウイルス分解酵素が至るところにありますので、時間とともに排除されていきます。問題は、細胞に感染したウイルス、細胞内に入り込んでしまったウイルスで、これが大量のコピーをつくって細胞外に飛び出してくるとどんどんウイルスが増えてしまいます。体液中のウイルス分解酵素は細胞内にまで入ってきませんので、CTLが内部のウイルス毎、感染細胞を死滅させるのです。CTLに殺されたウイルス感染細胞はいきなり飛び散ったらウイルスをまくことになりますが、そうはならずに、どんどん水分を放出し、細胞の体積を減らします。そして余った細胞膜を小さく「絞り」こんでいくつもの小さな泡の塊のようになっていきます。この泡を別の免疫細胞がひとつずつ処理していきます。

 

樹状細胞を新型コロナウイルスに向けさせるには、まず、抗原よりも前に強い刺激を加えて興奮状態にする必要がありますが、これはいくらでも手があります。ワクチンに添加されるアジュバンドの類を用いれば、樹状細胞は活性化され警戒モードに入ります。次に新型コロナウイルスの「抗原」を樹状細胞に取り込ませるのですが、こちらの方は簡単ではありません。体内ではマクロファージなどの他の免疫細胞から抗原をもらうようですが、培養器の中で培養された樹状細胞にたんぱく質やペプチドを浴びせてもなかなか取り込んでくれません。ここをクリアするのが難しいため、かつてメディネットさんもエレクトロポレーシス、つまり電気の力で樹状細胞表面に穴をあけて無理やりペプチドを取り込ませる技術を外部導入したことがありました。レーザーで孔をあけるなど、いくつかやり方はあるのですが、それだけ樹状細胞はペプチド抗原を自分で取り込むことはしてくれない、ということです。 ここも何とかクリアするとして、実際に投与してどうなるか、です。

 

これはやってみないとわかりません。なので「研究」です。 樹状細胞は本来、血液の中にはほとんどいない細胞ですが、静脈に点滴で戻した場合、どうなるのかがわかりません。ANK療法の場合、がん患者さんに静脈に点滴で戻せば速やかに腫瘍に殺到し、PET画像を撮れば腫瘍を圧倒するNK細胞集団の集積画像が得られます。NK細胞は元々、血液の流れにのって体内を循環し、また、血液の外にも大量に存在する細胞です。樹状細胞の場合も体内の移動はするのですが、基本的には拠点警戒網として、守備位置についている細胞であり、本来の住処ではない静脈に投入されてどこへいくのか、よくわかりません。ならば、皮下に注射する、とか、これもいくつか工夫はできるでしょう。 進行がん患者さんの場合は、がんによって強力な免疫抑制ががかかっており、免疫刺激能力がそれほどない樹状細胞を少し体内に戻しても、直ちに活性が低下するはずですが、何せ点滴で戻すとどこにいくかもわからないので測定することはできません。あくまで理論上、樹状細胞は強い免疫抑制下で機能しないだろうと「考えられる」という話です。そのため、がん治療として樹状細胞療法を行う場合、免疫刺激剤を一緒に投与することがあります。ウイルス感染症となると、エイズでもない限り、そこまで免疫抑制がかかっているとは考えられません。エイズの場合は、進行に伴って他の病原体に日和見感染していきますので、感染症免疫が低下していると考えられます。 ただし、感染症免疫力というものを測定することはできませんので、新型コロナウイルス感染患者さんを検査して、あなたの感染症免疫力は今、いくらです、ということはわかりません。

 

さて、問題の一つは時間です。血液の中から単球というものを集めて、これに薬剤を加えて樹状細胞に分化誘導します。「本人の樹状細胞を採取して」と書いてあった記事がありましたが、それはないです。培養期間を長くひっぱっても樹状細胞というのはほとんど増殖しませんので、樹状細胞に変換させて、刺激を加え、ウイルス抗原を取り込ませれば体内に戻します。何日でできるかはやってみないとわかりませんが、概ね2週間くらいですか。もっと短くてもできなくはないでしょう。検査などをやればやるほどコストも上昇し時間がかかりますので、決まったプロセスを経れば直ちに投与でしょう。感染疑いのある人にPCR等のウイルス検査を行い、陽性となってから細胞培養を始めると、培養ができたころにはまず「大半」の患者さんはもう元気になっています。重症化したのを確認してから培養を始めると、点滴(皮下注射?)で戻す前にもうお亡くなりになるかもしれません。投与が間に合ったとしても培養樹状細胞に刺激されてCTLが誘導・増殖してくるのにどれほど時間がかかるでしょうか。 いわゆる獲得免疫と呼ばれる現象を起こすわけですが、1週間や2週間ではなかなかむつかしいです。 3~4週間やそれ以上かかることもあります。 どのみち間に合わないような懸念があります。 また患者さん体内に元々、樹状細胞がいるわけですから、当然、自然なCTLの誘導をやってるはずです。それでも「押されて」しまって他界される方に、少々樹状細胞を追加投入して何の意味があるのか。そう考えていくと、治療手段としては無理があるように見えます。私どものグループも、樹状細胞、CTL、NK細胞(ANK法)など、一通り届出を提出しており治療用の培養を行うことはできますが、重症化を確認してから培養を始めると、どれをやっても新型コロナウイルス感染症の進行速度を考えると、間に合わない、と考えています。であれば、他人の免疫細胞を培養して凍結保管しておけば、直ちに投与できるのですが、これは本人の免疫細胞を培養後に本人に戻すよりもはるかに安全性について厳しく審査されます。CTLは他人の細胞を拒絶しますので他人由来のCTLは無理があります。NK細胞は海外で実績もあり、原理的に他人の細胞を拒絶しないので将来は他人のNK細胞を用いる治療が主流になるでしょうが、それにはいくつもの手続きを踏まえていく必要があり時間がかかります。 今、ウイルス感染症が社会問題となっている状況で、今から他人のNK細胞を用いることについて審査を通すのは現実的ではありません。NK細胞もウイルス感染細胞を傷害しますが、本職はがん退治です。まず、がん治療に集中、それがセオリーです。 他人の樹状細胞を使えばどうなのか。 これはわからないです。 樹状細胞は自然免疫系の細胞ですから、ひょっとしたら使えるのかもしれません、いや、やってみないとわかりませんが。 ただ、もし使えると大量生産でコストも下げ、直ちに投与で新型コロナウイルス感染治療に使えるかもしれませんが、どう考えても、まず本人の細胞から研究を始めるのが無難です。。 

 

一方、予防となると、コストの問題をどうするか、です。樹状細胞の培養を臨床上の実用レベルで10万円台で実施するのは無理です。もちろん細胞の量を極端に減らすとか、やり方はあるかもしれませんが、まともにやると百万円の束が一つ、二つか、処理によってはそれ以上必要になります。およそウイルス感染予防ワクチンとしてみた場合に「超破格」の高額となります。 新型コロナウイルスが原因と「されて」亡くなった患者さんがおよそ1000人、この方々の治療に一人当たり3000万円の公費を使ったとしても総費用は300億円ですから、公的医療費用43兆円の一部に過ぎません。ところが300万円の免疫細胞療法を1億人に予防として使うと総費用は300兆円に達しますから現実性はありません。30万円に抑えて1000万人に摂取してもまだ3兆円です。ワクチンは徹底した大量生産による低価格実現が必須要件です。 また、予防ワクチンすべてに言えることですが、本当に感染予防効果があるのかどうかを検証するのは容易ではありません。実際に、新型コロナウイルス感染者と濃厚接触してもらうとか、ウイルスを混ぜた粘液を鼻腔や口腔に塗るといった実験をしない限り、予防できているのかどうかはわかりません。 ただし、この問題はすべてのウイルス感染予防ワクチンに共通の問題であり、実際、感染を本当に予防できることが確実と考えられているのは、今はもう使われない種痘や、現役でいえば、はしかをはじめとする「生ワクチン」です。 

 

病気になってから治療するより予防できればその方がいいのですが、予防効果の証明は治療効果の証明よりはるかにむつかしいのです。

 

わざわざ原価が高い免疫細胞の培養技術を用いて、安価な製法も存在する予防ワクチンになぜ参入しようというのか。それは、裏を返せば、通常の手法で実際に感染を予防できるワクチンを開発することが非常に困難だからです。 接種して血中中和抗体を誘導すれば、一応ある程度、効果あり、と見做してしまい、さらに血中中和抗体を高値に維持できれば「効果あり」とされてしまうのですが、そもそも新型コロナウイルスもインフルエンザウイルスも粘膜上皮細胞に感染して増殖してしまいます。血中中和抗体は接触することさえないのです。では重症化を防げればいいではないか。これも中和抗体がウイルスにとりつくまではいいのですが、そのまま抗体抗原複合体の基本的な処理プロセスに則り、中和抗体をはりつけたウイルスは様々な細胞内に取り込まれてしまいます。大半はそこで分解されるのですが、ばらされる前にウイルスが自分自身のコピーを始めてしまうとADE抗体依存性感染増強という事態に立ち至ります。 「ワクチンをうって抗体をつくればいい」というほど単純にはいかないのです。 新型コロナウイルスの場合はワクチンの王道である「生ワクチン」をつくることはできません。そうなると、CTLを誘導してウイルス感染細胞を攻撃させよう、ということになり、基本的なセオリーには則っています。 で、実際、どれくらい効くのかは、これはまだまだ何ともいえません。 

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